AA研要覧 2001
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21 21世紀転換期の人文社会系諸学でこれまでに発現をみてきたさまざまな思潮の底流にあるのは,西欧近代の市民原理に裏打ちされ相互に交錯しつつ成立した三様のレヴェルにおける歴史主体-<国家><民族><個人>-のありようを複数の視角から根本的に問いなおしていく,主体の問いなおし作業にほかならなかった。 本プロジェクトがめざすのは,このうち国家や民族の“揺らぎ”とは対照的に主体としての権利づけが複数性のうちでつねに代補・更新されながら,非西洋世界における記憶,声,身体,ジェンダー,あるいはクレオール,ディアスポラ,サバルタン,マノリティ,市民(市民社会,世界市民…)といった数々の言説空間の内で中核を占めてきた第三の主体概念<個人>の位置づけについて,20世紀・間大西洋アフリカ系諸社会における特定の個々人の生の深みにまでさかのぼった具体の場からこれを問いなおし,比較検討していく作業である。アフリカ大陸・島嶼部の諸社会,カリブ・中南米のアフロ系諸社会,およびアメリカ合衆国のアフリカ系コミュニティを対象とする人類学,歴史学,政治学,文学など多分野の研究者から構成された共同研究によりその際とくに焦点があてられるのは,自己による自己の生を通じた表象形成と,他者による他者の情報を介した表象形成との交叉点で成立する,<個体化=個体形成individualization>の歴史・文化的動態となるだろう。 阿部小涼 荒井芳廣 岩田晋典 遠藤 貢 大辻千恵子 大森一輝 落合雄彦 工藤多香子 栗本英世 崎山政毅 佐々木孝弘 柴田佳子 鈴木 茂 鈴木慎一郎 武内進一 竹中興慈 中條 献 津田みわ 中林伸浩 浜 邦彦 樋口映美 星埜守之 松田素二 矢澤達宏 渡辺公三 間大西洋アフリカ系諸社会における20世紀<個体形成>の比較研究 (主査:真島一郎/所員 4,共同研究員25)ビルマ料理店のメニュー(左)と料理(下) メニューは,蝦・鶏・家鴨・豚・牛・サンバー(鹿の一種)・魚・野菜の順に料理を記している。料理は,前列右からオウンタミン(ココナツミルク炊きのご飯),ページーナッ(フジマメのやわらか煮),後列右からウェッタニージェッ(豚肉の赤煮),チンイェーヒン(酸味のスープ)。 (ヤンゴン市カマーユッ区,ダヌビュー=ドーソーイー料理店フレーダン店にて,1997年12月26日,澤田英夫撮影)

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