17 本プロジェクトは,イスラーム圏において国際関係がいかに形成され,認識され,発展してきたかを,総合的に研究することを目的としている。その出発点として,600年以上にわたって中東地域の中核部で発展し,また文書資料による情報を豊富に蓄積してきたオスマン帝国を対象に選び,(1)その対西方すなわち地中海・西欧地域に向けて,(2)対北方すなわちロシアに向けて,そして,(3)対東方の中央アジアとイラン,インド洋地域に向けて,そしてさらに可能であれば,(4)対南方のアフリカ内陸地域に向けての,それぞれの国際関係の実態を,時代的な発展過程に留意しながら多角的に論ずる場をつくりだしたい。ここでいう国際関係とは,国家間の外交関係のみならず,その基層をなした人間たちの交流の具体相もふくむ広義のものである。従って,国際条約とイスラーム法の関係,戦争と安全保障,外交団の構成と活動,通訳,貿易と関税,巡礼といったさまざまな問題が設定される。これらの課題を,古代西アジア世界もふくめた長期的展望のなかで位置づけ,同時に現代世界の国際関係,とりわけ中東地域をめぐる国際政治に対しても新しい有効な視座を提供できるように検討してゆくものである。 江川ひかり 奥田 敦 小山田紀子 上岡弘二 川口琢司 小松香織 佐藤幸男 佐原徹哉 新谷英治 高松洋一 永田雄三 羽田 正 深澤克己 堀井 優 堀川 徹 松井真子 三沢伸生 宮崎和夫 山口昭彦 イラン生まれのジャマール・アッディーン・アル=アフガーニー(1897年没)は,生涯にアフガニスタン,インド,エジプト,トルコといったイスラーム圏の各地とヨーロッパ諸国を訪れ,19世紀後半以降のイスラーム世界の歴史に大きな思想的影響を与えた革命家である。彼は伝統的イスラーム思想の改革や専制政治の打破など,ムスリム社会内部における変革の必要を唱える一方,各地でヨーロッパの侵出に対するムスリムの団結(パン=イスラミズム)を説いて回った。エジプトのオラービー運動,イランのタバコ・ボイコット運動など,19世紀末に各地で起きた「民族」運動も,彼の存在を抜きにして語ることはできないし,現在イスラーム世界が直面している思想的課題のほとんどはアル=アフガーニーのもとですでに予感されていたといっても過言ではない。 本プロジェクトは,没後100年を迎えたこの偉大な革命家の思想や足跡,各地における評価などを総合的に分析することによって,最終的にはイスラーム世界における「近代」の意味まで問い直すことをめざす。また,上記目的をより効果的に達成するため,文部省科学研究費創成的基礎研究『現代イスラーム世界の動態的研究』の1-a班「現代イスラームの思想と運動」と緊密に連携しつつ研究を進めていく予定である。 新井政美 池内 恵 大石高志 大塚和夫 帯谷知可 加賀谷寛 粕谷 元 栗田禎子 小杉 泰 小松久男 酒井啓子 富田健次 中田 考 中西久枝 中村 覚 八尾師誠 松永泰行 松本 弘 三木 亘 吉村慎太郎 イスラーム圏における国際関係の歴史的展開-オスマン帝国を中心に- (主査:黒木英充/所員4,共同研究員19)アル=アフガーニーとイスラームの「近代」(主査:飯塚正人/所員2,共同研究員20)
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