22 人類社会における性と性差の問題へのアプローチに関しては,ジェンダーとセクシュアリティという二つの用語で代表される関心のあり方の差異がある。この共同研究では,広くアジアとアフリカの諸社会を見渡しつつ,ジェンダーとセクシュアリティの社会的編制や性的イメージの構成について,国家および地域的・家内的経済といったマクロな規制とミクロな対面行動の架け橋あるいはバトルフィールドとなる議論を展開し,これまでの人類学的研究から歩を進める。 足羽與志子 河合香吏 栗田博之 菅原和孝 沼崎一郎 速水洋子 松園萬亀雄 牟田和恵 人類学においては個人対社会,主観対客観といった二項対立的な問題設定を前提としていることが多い。この共同研究プロジェクトは,こうした前提を超えて,いかに人々の経験のリアリティを捉えることができるのかについての,人類学的な理論的展望をひらくことを目的とする。ここでいう社会空間とは,主体の実践のスペース,もしくは実践において他者と相互作用しつつ構築する社会関係の総体をさす。そこにおいては,実践主体はいかに重層する諸関係とかかわりながら自己を維持し構成するのかが問題となる。そこからあらためて,社会的なるものが問われることになろう。このような社会科学の中心的ともいえる課題を追求するために,研究会は人類学者を中心としながらも,心理学,社会思想等の隣接分野の研究者の参加をあおぎ,学際的な共同作業による理論の構築をめざす。 本プロジェクトでは,こうした課題を追求するにあたり,宗教といった現象に焦点をあわせることで,個々のメンバーの事例報告の羅列に終わることを避け,より議論を建設的に深めようとする意図をもっている。高度経済成長に伴う大衆消費社会の出現,情報社会化,国際化のなかで,人々は宗教的な実践を多様化,差異化させている。このような宗教,あるいは宗教的なものの経験をとおして,再編成されていく社会関係のあり方を考察することは,社会空間の概念を歴史的文脈において検討することを可能にするものと思われる。 今村仁司 高木光太郎 高崎 恵 田邉繁治 田中雅一 田村愛理 土佐桂子 當眞千賀子 アジア・アフリカにおけるジェンダーとセクシュアリティ (主査:内堀基光/所員5,共同研究員8)社会空間と変容する宗教 (主査:西井凉子/所員7,共同研究員8)◆タウンシップの子供たち アパルトヘイト崩壊後の南アフリカで,タウンシップ(都市周辺の旧黒人居住区)は活気に満ちている。子供たちの笑顔は新しい時代の象徴だ。しかし,学校と教師の不足は深刻で,二部授業のため,昼間は学校に行くことのできない子供たちも多い。 (ジョハネスバーグ郊外のソウェトにて。1997年3月。永原陽子)
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