20 イラン生まれのジャマール・アッ=ディーン・アル=アフガーニー(1897年没)は,その生涯にアフガニスタン,インド,エジプト,トルコといったイスラーム圏の各地とヨーロッパ諸国を訪れ,19世紀後半以降のイスラーム世界の歴史に大きな思想的影響を与えた革命家である。彼は伝統的イスラーム思想の改革や専制政治の打破など,ムスリム社会内部における変革の必要を唱える一方,各地でヨーロッパの侵出に対するムスリムの団結(パン=イスラミズム)を説いて回った。エジプトのオラービー運動,イランのタバコ・ボイコット運動など,19世紀末に各地で起きた「民族」運動も,彼の存在を抜きにして語ることはできないし,現在イスラーム世界が直面している思想的課題のほとんどはアル=アフガーニーのもとですでに予感されていたといっても過言ではない。 本プロジェクトは,没後100年を迎えたこの偉大な革命家の思想や足跡,各地における評価などを総合的に分析することによって,最終的にはイスラーム世界における「近代」の意味まで問い直すことをめざす。また,上記目的をより効果的に達成するため,文部省科学研究費創成的基礎研究『現代イスラーム世界の動態的研究』の1-a班「現代イスラームの思想と運動」と緊密に連携しつつ研究を進めていく予定である。 新井政美 池内 恵 大石高志 大塚和夫 帯谷知可 加賀谷寛 粕谷 元 栗田禎子 小杉 泰 小松久男 酒井啓子 富田健次 中田 考 中西久枝 八尾師誠 松本 弘 三木 亘 人類史的な観点からみると,人は常に移動と接触を繰り返すことによって,集団の離合集散を繰り返してきた。現に存在する「民族」なども,そのような離合集散の産物といえよう。人の移動は,領域と境界を生命線とする近代の国家体制下では,必然的に制限が加えられてきた。しかし,今日,部分的には資本主義の無境界的浸透とも対応する形で,人の移動は活性化し,国家の枠組みすら脅かしている。 このプロジェクトでは,広い分野,地域を対象として問題領域の設定を試みた重点共同研究プロジェクト『東南アジアにおける人の移動と文化の創造』(1996-1998)の成果を踏まえ,より詳細に個別具体的な設定のもとに,現代における人の移動を文化,とりわけ集団意識の生成・変成過程に注目して,研究を進める。 主たる対象地域であるマレーシアのサバ州は,インドネシア及びフィリピンとの間で人の移動が激しく,集団の構成,意識,生活世界の構築といった諸側面で,様々な方向性や動きがみられる。このプロジェクトでは,現地調査と並行して研究会を開催し人の移動を文化的側面から解明する。 第二年次の本年度は,人の移動の制度的側面と民族カテゴリーの生成過程に焦点を当てる。 赤嶺 淳 石川 登 伊藤 眞 上杉富之 清水 展 富沢寿勇 長津一史 山下晋司 アル=アフガーニーとイスラームの「近代」(主査:飯塚正人/所員2,共同研究員17)東南アジア島嶼部における人の移動 (主査:宮崎恒二/所員3,共同研究員8)
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