13 21世紀を目前に控えた今日,地球社会は「グローバル化」を求める言説に席巻されている観がある。規制緩和と公正な市場競争によって個人の努力が正当に報われる社会を実現しようという主張である。だが現実には,競争から脱落する不幸な人々の群れが目につく一方,グローバル化の先にいかなる未来が待っているのか,明確なヴィジョンを誰も示し得ずにいる。内外を問わず,ある種の閉塞感が蔓延するゆえんである。 本プロジェクトは,このような閉塞感を打破すべく,アジア・アフリカの政治文化に焦点を当てる。アジア・アフリカはすでに19世紀から植民地化という名の,西欧的体系への規格化・標準化を経験しており,現在進行中のグローバル化に対しても適合と反発,両方の対応を見せている。すなわち,本プロジェクトの目的は,アジア・アフリカの様々な政治文化を多角的に調査・研究することを通じて,一般に流布しているグローバル化の言説を相対化し,地球社会の文化創造のための新たなパラダイムを提示することにある。 この目的を達成するため,本プロジェクトでは6つのサブグループを設置する。(「近代国家機構の形成」「ナショナリズムとインターナショナリズム」「多民族統合メカニズムの比較」「言語共同体と言語政策」「移動と越境」「国家・宗教・市民社会」)。これにより,アジア・アフリカにおける多様な政治文化の成立過程を明らかにし,国家を軸とする画一性と多様性との拮抗関係を探り,国家の枠に収まらない様々な動きや組織の現状を捉えることができると考える。 粟屋利江 イ ヨンスク 遠藤 貢 佐原徹哉 鈴木 茂 芹澤知広 竹村景子 田中雅一 速水洋子 稗田 乃 宮本正興 アジア・アフリカにおける政治文化の動態 (主査:栗原浩英/所員19,共同研究員 11)◆ヴィクトリア通りのベトナム人商店(1) オーストラリアへのベトナム人の移住はベトナム戦争の起こった1960年代以降のことで,移住民の中では最も後発の部類に属する。メルボルン近郊では,西のマリブァノンMaribyrnong市フッツクレイFootscray地区と東のヤラYarra市リッチモンドRichmond地区が,ベトナム人居住地の双璧である。ベトナム人の占める割合がヴィクトリア州で最も高いマリブァノン市の公式ウェブページには,イタリア語,ギリシャ語,漢語,マケドニア語,スペイン語と並んで,ベトナム語のコンテンツも用意されているほどである。 写真はリッチモンドのベトナム人料理店。前を走るメルボルンのシンボルの一つ,黄色と緑のツートンカラーのトラム(路面電車)も,ベトナム語や漢語表記の看板の中ではまた違った趣きを感じさせる。 (2000年3月25日。ヴィクトリア州ヤラ市リッチモンド,ヴィクトリア通りにて。澤田英夫)
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