インドは間もなく独立後半世紀を迎える。その間インド政治の重要な問題のひとつが連邦(中央政府)・州関係であったが,憲法の連邦制規定にもかかわらず,実際は中央集権的体制の下に州政治は多大な制約を受けてきた。しかし,近年,かつて一党独裁と形容された国民会議派の組織力は脆弱化し,連立政権体制が不可避の現実となっている。今や連邦制のあり方,州政治の意味・役割に関する新たな検討が重要な研究課題である。本プロジェクトは,こうしたインドの州政治状況の変化と実態をカースト諸関係をひとつの手がかりとして考察する。州政治を動かす要因はさまざまであるが,重要な鍵がカーストである点は今日なお否定できない。「政治のカースト化」「カーストの政治化」という現象はますます顕著である。一方,従来のインド州政治研究が扱った各州のカースト状況にも大きな変化がおこっている。特に1980年代以降の「下層階級(カースト)=OBC」をめぐる「留保問題」,指定カーストに基盤をおくバフジャン・サマージ党の台頭等々,多くの新しい現象が見られる。主要な作業は,各州のカースト間の諸関係を明らかにし,特定のカーストの政治的結集や複数カースト間の政治的提携,あるいは離反・対立をもたらす諸要因を検討することである。さまざまなレベルの選挙でのカースト票の流れだけでなく,インド特有の社会区分といわれるカーストと政治のつなぎ目を州別に具体的に探る。選挙や政治活動によって出来上がったカースト関係(「政治化したカースト」)が,社会生活上のカースト関係にどうフィード・バックしていくかという観点も必要であろう。本プロジェクトの中心テーマは政治であるが,より深い考察を目指し,政治・歴史・経済及び文化人類学の分野の研究者を含む研究体制で進める。粟屋利江井坂理穂井上恭子押川文子近藤則夫佐藤 宏篠田 隆杉山圭以子関根康正田辺明生長谷安朗山田桂子脇村孝平独立インドの政治とカースト―州レベルの研究を中心に(主査:内藤雅雄/所員2,共同研究員13)18◆バンガロール市内の1コマ(1998年夏撮影。町田和彦)
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