AA研要覧 1999
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近代以前の中国周辺地域は,中華文明を長く理想型と見なし,それを積極的に取り込むことにより,自らの文化の正統性を確保してきた。しかし,近代以降は,この地域の諸国家では国境が確定され,国家建設のために西欧近代をモデルとしたイデオロギー(共産主義を含めて)を求心力として国民を各国の中心へ引きつけるという動きが見られた。ところが,近年では,これらの国々は,急速な経済発展を遂げて政治経済的に自信をつけはじめており,いわば「一枚岩の国民」を作り上げるイデオロギーにこだわる必要もなくなり,民主化,対外交流,多様性の容認等といった現象が見られるようになった。他方,中国も対外閉鎖路線から開放政策へと転換を図ることで,経済発展の道を歩みはじめており,地方の主体性を容認して,対外交流を積極的に押し進めるようになってきた。このような中国側および周辺諸国側双方の変化は,両地域の経済および文化の側面での相互交流を促進し,両地域の伝統文化の変容,民俗文化の再創造といったプロセスが進行しつつある。さらに,このことは,中国国内の周辺部とそれに歴史文化的につながりのある周辺諸地域との間の新たなネットワーク形成,経済・文化圏形成にも繋がってきており,かつての周辺地域を新たな中心とする,中心周縁関係が生み出されつつある。以上のことから,本プロジェクトでは,昨今の経済発展の中での各地域における民俗文化の再編成・再創造のプロセスを明らかにし,従来の国家の枠組みを解体・再構成するような社会・文化の創造の可能性に関して新しい視点を提起していくことを目的としている。伊藤亜人植野弘子小熊 誠笠原政治韓  敏佐々木衛清水 純秦 兆雄末成道男瀬川昌久聶 莉莉西澤治彦沼崎一郎秀村研二堀江俊一渡辺欣雄「中華」に関する意識と実践の人類学的研究(主査:三尾裕子/所員3,共同研究員16)16◆移牧へ出発の朝乾季に入り,水と草の多い地域への移動に出るフルベの少年。ロバに曳かせた小さな馬車の上には,穀物袋,衣類の入ったトランクはもちろん,少年の遊び友達でもあるインコも乗っている。撮影は1984年であるが,乾季の移動は今も変わらず行われている。(セネガル。小川了)

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