31Field+ 2013 01 no.931ショートヘアの彼女は、5時間後には魅力的なラスタに変身した。ただし髪が引っ張られる痛みで、完成後3日間は眠れない人もいるという。「マミ・ウォーター」と呼ばれる水の精をモチーフにした髪型、ヘアスタイル・コンテストにて。いまや髪型の可能性は無限大だ。ヘアケア製品店の店先。パーマ用薬剤の箱やヘアスプレーのボトル、ポマード等が並ぶ。筋状に編みこんだ地毛に、ウィーブ・オン用のつけ毛を縫いつける様子。髪結いも楽ではない パーマは20世紀前半のアメリカで生まれた技術であり、アフリカ系の人々が肌の色と髪質を目印に差別されてきた歴史と密接な結びつきをもっている。強力なアルカリ薬剤を用いるため髪が傷みやすく、頭皮の炎症も後を絶たない。一度かけると6~8週間ごとにかけ直さねばならず、なかなかやめられない面もある。一方のつけ毛も、髪型によっては髪が強く引っ張られたり、髪結いに時間がかかったり高価だったりと、身体的・経済的負担から自由ではない。 パーマやつけ毛は、ガーナが1980年代に貿易自由化などの構造調整政策を受け入れ、人々の海外出稼ぎが増加する中で普及した。以後は外国のヘアケア製品会社が積極的に進出して、その動きを後押ししてきたのである。こうした背景を考えると、女性たちは、外国の技術や製品に踊らされているように見えなくもない。髪のおしゃれの水脈 アフリカでは古くから、さまざまな髪の装いが行われてきた。ガーナも例外ではない。17世紀ヨーロッパ人の旅行記には、人々が髪を編んだり巻いたり、染めたり、薔薇や王冠の形に結ったり、黄金や珊瑚で飾ったりしているさまが描かれている。 髪型は、民族やジェンダー、年齢層、社会的・経済的地位、ときには本人の置かれた状況を示すものでもあった。呪術的な力を持つ伝統的司祭が髪に櫛を入れず、死者の遺族が葬式に際して髪を剃りおとす地域もあった。髪を伸ばし、労力をかけて装うことは、自分が「平常状態にある、普通の」女性なのだと示すことでもあったのである。 外国製品も積極的に用いられてきた。17世紀には輸入ビーズで髪を飾っていたとの記録があるし、1960年代には女性のかつらが流行し、その是非が新聞紙上で議論されるまでになった。 この紙上討論では、「かつらは贅沢」「地毛に誇りを持つべきだ」という男性読者に対して、女性たちが「良質なかつらは経済的」「地毛を保護し、整髪の手間を省き、美しさを強調してくれる」「流行なのだから良いじゃないの」と堂々と反論している。 髪を取り巻く社会的文脈と、日々の暮らしの中で、女性たちは今も昔も、髪の機能性やおしゃれを求めてきたのである。ファッションは進化する 髪に関わる技術の変化はめまぐるしい。髪や頭皮への影響が少なく、魅力的な髪をめざして研鑽する美容師がいる一方で、最近は髪を丸刈りにするエリート女性や、パーマなしで直接つけ毛をつける女性も出てきた。国内外の動向や流行、企業活動などとも密接に関係しつつ、ガーナ女性を物理的・心理的に支えるものとして、そして悩ましくも魅力的なものとして、髪のおしゃれの進化は止まらないのだ。ガーナ共和国ボルタ湖アクラ
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