25Field+ 2013 01 no.9年の客員講師はロンドン大学ゴールドスミス校の人類学者クリストファー・ライト、マンチェスター大学グラナダ映像人類学センター研究員(当時)の私、イラン人映画監督のシャナズ・アザリ、ペルー人映画監督のメアリー・ヒメネス、計4名が務めた。SICの映像実践 SICの映像実践の特徴の一つとして、「イマジネーションの産物」としての文化に対する、映画的なアプローチが挙げられる。SICベルギー人講師のアン・ヴァン・ディエンデレンとディディエ・ヴォルカートが監督した 『DOG OF FLANDERS ─MADE IN JAPAN』では、イギリス人作家のウィーダが19世紀に書いた児童文学が、ハリウッド映画として、さらには日本のテレビ番組(1975年に初放送された日本アニメーションによる「フランダースの犬」)として、いかに改変、再編され、あらたな物語として生み出されていくのかを、歴史文化的な土壌も考慮しつつ描いた力作である。ロラーン・ヴァン・ランカーが制作した『Surya』 は、10か国の吟遊詩人やストーリーテラーそれぞれに「名前のない英雄」というキーワードをあたえ、そのキーワードをもとに、唄や踊りを通して即興の物語を紡ぎだしてもらうという実験作である。「侵食」される過程を、YouTube の再編映像、ビデオ映像、8mmフィルムや自身のナレーションによる告白とともに表現した。 Who are you? 参加者たちの自由な発想に基づく、オーディオヴィジュアルの試みは、常に講師陣による厳しいフィードバックを受ける。その厳しさに、参加者がセミナー中に泣き出してしまうことも珍しくなかった。主宰者のパウウェルズは、制作途上のプロジェクトの発表会において、常に「Who are you?」 という質問を発表者になげかける。プロジェクトを遂行する発表者自身は何者であり、そのプロジェクトを行うことが発表者にとって何を意味するのか、という実存的な問いかけである。そのためか、短い制作期間のためなのかは定かではないが、SICの成果作品には、制作者自身の主観を前景化した作品が多く、制作者の立場が戦略的に明かされない観察型の映画様式(Observational Cinema)の作品は少ない。ただし、制作者自身の立場の映画的な表現にこだわりすぎることは、「自ら」の表象に安易に帰結する作品を生み出すことにもつながりかねない。SICの実践は、文化の記録という人類学的な命題と、様々な映像実験がスリリングな均衡を保ちながら、成立していたといえる。 SICでは、セミナー等を通し、ベルギー国内外の著名なアーティストや映画関係者との交流が頻繁に行われた。2011年の11月には、SICの講師陣の企画により、『ゆきゆきて、神軍』『極私的エロス・恋歌1974』等のドキュメンタリー映画で知られる原一男氏がベルギーに招聘され、氏の作品の特集上映がブリュッセルの国際映画祭 Filmer à Tout Prixにおいて行われた。私自身、映画祭の企画で原氏と対談をさせていただき、さらにSIC参加者が、原氏より制作に関する直接的な助言を受けることになった。 SICの成果作品は、コンテンポラリーアートシーンから国際映画祭、学術映画祭等、幅広い場において発表されている。SICは、文化の記録における映像表現の地平を今後もラディカルに探究していくことであろう。以上の作品では、人の想像と想像の共鳴の中に生み出される、流動的な現象としての文化の動態が、幻想的なイメージとともに描き出されていく。 また、SICの技術面での顕著な傾向は、異なるメディアを一つの映像作品のなかで効果的に組み合わせて用いることである。フィルムやビデオ、写真等、複数の異なるメディアによる映像を組み合わせて作品を構築することは、メディアの互換性の違いからくる編集トラブルを生み出しやすい。しかしながら、SICでは、プロの映像編集者や技師が参加者のサポートを行い、参加者がのびのびと映像表現を探求する手助けをしていた。 参加者の一人であるオーストリア人の映像人類学者は、チュニジアの革命に対する現地の人々の語りに、現地の人々が再演した革命時の出来事(放火、デモンストレーション)をスーパー8(スーパー8mmフィルム)によって記録した粗い映像を挟み、革命が語り継がれるなかでコミカルにフィクション性を増していく過程を示した。また、イタリア人の映画作家は、東南アジアにおいて性産業に従事する女性との交渉過程をYouTube に定期的にアップするドイツ人ツーリストのオンライン上のダイアリーをテーマにする映画を制作した。そこでは、制作者自身が、罪悪感にとらわれながらも、ネット上のイメージの世界に自らが惹かれSIC主宰者のエリック・パウウェルズ。SICのセミナー風景。制作途中の作品の上映と議論。SICのベルギー人講師アン・ヴァン・ディエンデレン。原一男氏(左)と筆者(右)、Filmer à Tout Prixにて。SoundImageCultureウェブサイト:http://www.soundimageculture.org/en
元のページ ../index.html#27