FIELD PLUS No.9
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24Field+ 2013 01 no.9はじめに 映像人類学(Visual Anthropology)は、写真や動画等、広く映像を対象とし、活用する人類学の研究分野である。なかでも、映画的手法を用いて文化事象の記録と研究を行う民族誌映画の制作は、映像人類学の主要な研究実践として知られてきた。私はアフリカにおいて音楽・芸能等、無形文化の調査に従事するとともに、それらを対象とした民族誌映画の制作を行い、学術映画界に発表することを活動の中心に据えている。特に近年、欧州では民族誌映画祭をつなぐ人類学映画祭機構(CAFFE)を通じ、映像人類学の国際的な研究交流が盛んになっている。同時に、主流であったテクストによる民族誌記述を踏襲する映画様式を改め、人類学とアートが交叉する実践のなかで、文化の記録における新たな映像表現を探求する動きが、各地にみうけられる。英国において研究に従事した2010年4月からの2年間、私は欧州の映像関連の研究、教育プロジェクトにいくつか関わる機会を得た。ここでは、ブリュッセルを拠点にする映像制作の実習コースであるSoundImageCulture(以下SIC)を紹介したい。SoundImageCultureの概要 SICは、映画、人類学、コンテンポラリーアートの関係者の領域横断的な議論と実践を通し、文化の記録と映像表現における、新たなオーディオヴィジュアルの話法を開拓しようという目的で設立された。SICは、現代メディアにおける「他者」の表象のありかたを再帰的にとらえつつ、映像表現を模索する場であり、特定の大学や研究機関に属さない。当コースは、ベルギーの国立映画学校の教員(当時)であり、フランスの映画監督・人類学者のジャン・ルーシュに師事したエリック・パウウェルズの提唱により、ベルギー・フランダース政府の助成を受けて2006年にスタートした。直属の講師6名と、外国人の客員講師が、毎年4月から12月にかけての9か月間にわたり、各国から募集・選抜した10名ほどの参加者の映像制作プロジェクトを指導し、補助する。2011年の参加者の顔触れには、人類学の修士課程を終えた者や、博士課程の学生、映画学校の学生等がいた。参加者の出身国は、イタリア、オーストリア、ドイツ、ベネズエラ、アメリカ、ベルギー、フランスと7か国にわたった。ベルギーの講師陣は、映像人類学の歴史、制作理論や方法論についての講義と、撮影、編集に関する制作技術の指導を行い、客員講師は、月に一回ほどのペースでブリュッセルを訪問し、あるいはSkypeをとおし、それぞれの参加者のプロジェクトに対する助言を行う。2011フロンティア文化の記録と映像表現 ブリュッセルの映像制作実習コース見聞記川瀬 慈 かわせ いつし / 国立民族学博物館SICのセミナー風景。参加者によるプロジェクトの計画発表と議論。映画的手法を用いて文化事象の記録と研究を行う民族誌映画の制作を主要な研究実践としている映像人類学。その実際として、文化の記録における新たな映像表現を探求する動きのひとつ、ブリュッセルを拠点とするSoundImageCultureを紹介しよう。

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