FIELD PLUS No.9
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20Field+ 2013 01 no.9フィールドでの快適ホテル生活 少なくとも私の場合、1日の3分の1は寝ている。残りの時間も半分は生物として必要な活動や研究に関係のないことをしている。これはフィールドでも同じである。従って、これらの時間が快適かどうかはフィールドワークにとって決定的である。 私の専攻は言語学で、主としてエチオピア南西部のウォライタと呼ばれる地域で、2007年の国勢調査によると母語話者人口1,627,784人のウォライタ語の調査を行っているが、幸いにも快適な拠点を得ることが出来た。それはボディティという町のGホテルである。当地随一の高級ホテルであり、私は当然その一番良い部屋に泊っている。宿泊料は近年の物価高騰の煽りで昨春には1泊50ブルにもなってしまったが、日本円に換算すれば数百円であろうか。 日本のビジネスホテルよりは格段に広く、調査用にテーブルと椅子を追加で入れて貰ってもまだ相当余裕がある。エアコンはないが、現地の気候では必要ない。シャワーと洋式トイレ完備。お湯は出ないが現地の気候ではこれまた必要なし。但し、ほぼ常時断水しているので大きなポリ容器で運び入れて貰った水で何とかすることになる。 Gホテルを選んだのは、首都アジスアベバで知り合ったウォライタ語のインフォーマントA氏の推薦だからである。私は初期の基礎的な調査は首都で行っていたのだが、いずれ現地に住んで本格的な調査をしたいと思っていた。そこで尋ねてみるとA氏は「ウォライタに泊れる所は2つしかない」と断言。ならば信じるしかない。その2つがGホテルとウォライタの中心部ソドにある別のホテルだったのだが、A氏の実家に近いのはGホテルであったし、こぢんまりとした町の雰囲気も気に入ったので何となくそちらを選んだ。結果としてこれは大正解であった。ウォライタグルメ堪能の日々 まず、レストランの食事が美味い。「『不味くて食えない』なんて、贅沢だ」というのは嘘である。想像を絶する不味い料理がこの世には存在する。それまでエチオピアでは全く口に合わないものを時として供され、こう言っては申し訳ないが辟易もしていた。だから、このホテルにも期待していなかったのだが、名物の牛肉を使った数々の美味いメニューにはあっと言う間に虜になった。例えば左下写真の料理など、見るだけで食慾を催すではないか。 厨房の従業員も親切で、仮に総て売り切れてしまっても、賄い用の食事を分けてくれたり、店で卵を買って来て炒めてくれたり、特別メニューを出してくれる。最近は売り切れそうになるとわざわざ教えてくれたり、予約して確保しておくよう勧めてくれたりもする。だが、売り切れたら仕事を上がれるのに、私の予約した料理を作るためだけに彼等を待機させるのは何とも心苦しい。私に出来るせめてものことは、一刻も早く晩酌を始め、一刻も早く夕食を終えることである。 その晩酌であるが、Gホテルでは冷たいビールが飲める。停電はしょっちゅうだが、最近発電機を導入したので、ぬるいビールは頼まなければ出て来なくなった。もっとも最近は「ドラフト」というジョッキで飲む生ビール紛いのものが多少廉価なので人気があり、私も釣られてしまうことが多い。ホテルでたった1人間とは何か。真摯に究めたければ徹底した烈しいフィールドワークを敢行せよ。そこでは24時間が勉強だ。そこからこそ新たな知的貢献が生まれる――その通り。だが、もっとゆる~いフィールドの世界がある。フィールドノート ウォライタでの生ぬるいフィールド生活調査を支える遊びの時間若狭基道 わかさ もとみち/明星大学等非常勤講師、AA研共同研究員ホテルが断水しているため、水汲みに行ったD君。私も邪魔しに行った。私の泊っていたホテルの部屋。細く切った牛肉を焼いたGホテル名物「ズルズルトゥブス」。0200400km紅 海エチオピアエリトリアスーダンジブチアジスアベバ南スーダンウォライタ0200400km紅 海エチオピアエリトリアスーダンジブチアジスアベバ南スーダンウォライタ

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