18Field+ 2013 01 no.9 研究を変える 自然保護では、「地球全体のことを考えながら、地域に根ざして活動する」のがよいとされてきた。世界や宇宙、遠い昔や遥か未来に思いを馳せつつ、自分は、日本列島の小地域にこだわる研究を続けている。 まず、富士山麓で、コゲラと、いっしょに棲む他の2種のキツツキを観くらべることから始めた。関東西端の秩父山地、怪人二十面相の秘密基地が近くにあったという山奥に職を得て、急斜面の森とそこに棲むクマや鳥の生態研究にあけくれつつ、春先に日本各地でコゲラを調べ、キツツキの縁で、奄美大島にも通いだした。職場が都心に移り、秩父ではクマの好物のドングリに研究対象を変え、奄美大島でもドングリや森林調査が加わった。そして、大震災と原発事故後の夏から、阿武隈山地北部で研究し始めた。体は一つしかないので、コゲラはちょっとのあいだお休み中である。ほぼ10年ごとに、研究が変わって来た。 とはいえ、コゲラとのつきあいが深く長い。15年近く飼い続けもした。コゲラと暮らしていると、よく声をかけられた。野生では雌雄で年がら年じゅう日がな一日連れそい、静かにギ~と声を掛けあっているので見つけやすい。飼育個体は、私によくなついた。帰宅すると、キッキッキと挨拶してくれた。生き物は、飼うと、桁違いのことがわかる。コゲラの声をきけば、季節や場所等から状況をウグイスとコゲラの声 ほ~ほけきょ と読んで、なにも思い浮かばない日本のかたは、奇特なほうかもしれない。では、ぎ~、きっきっき は?となると、人それぞれであろう。私にとって、これはだんぜ444ん4コゲラ(極東に分布する小さなキツツキ)なのだけれど。これらの鳥の、声の主の姿は思い浮かぶだろうか。鳥の出す声や音からは、種名だけでなく、家族づれ(巣立ちヒナがいる)か、なにをしているかなど、いろいろ推測できることが少なくない。野鳥の声と「変える」石田 健いしだ けん / 東京大学大学院 自然の中の鳥研究の主流は、昔は採って標本にし、今は視覚や映像の記録、あるいはDNAなどの生体試料を多く利用する。音声を録る方法も、将来性がありそう。 コゲラなどの野生動物の音声と長年接してきて、大震災後の世界の変化も音の情報で伝えられるのではないかと思っている。変える3雄のウグイス。さえずり声の録音を流すと、ライバル出現とやってきてかすみ網に飛び込む。捕まえて、脚環標識、各部の計測、羽毛や血液試料を採り、撮影して放す。福島の個体。ツキノワグマ。個体識別用の耳タグと追跡用のFM波の首輪発信器を装着されて、逃げだすところ。歯並びや歩き方、体の大きさ、仕草など、クマは人にそっくり。個性もある。ウグイスのさえずり。ソナグラム(音声分析)で「ほーほけきょ」がこのような図に表される。本物のコゲラを手に載っけている30年程前の自分。コゲラはいつもつがいでいっしょにいるので、人にもなつく。20KHz1050.51.01.5秒
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