FIELD PLUS No.9
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16Field+ 2013 01 no.9マイクロクレジットは社会を変えるのかバングラデシュの農村からの一考察日下部尚徳くさかべ なおのり / 文京学院大学2006年ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士が考案したマイクロクレジットは、バングラデシュ社会にどのような変化を与えたのでしょうか。貧困層の生活を「変える」力を持つと考えられているマイクロクレジットを住民とNGOの視点から考えてみたいと思います。ゴミ拾いで生計をたてるダッカのストリートチルドレン。高潮の高さを示してくれた住民。ハティア島にむかう船がでるダッカの港。2009年のサイクロンによる高潮で浸水した村。高潮によって家が流され、堤防の上に移り住んだ人びと。被災住民への聞き取り調査をおこなう筆者。変える2社会を「変える」ことへの憧れ みなさんは、バングラデシュという国に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。路上生活をおくるストリートチルドレンから連想される貧困、サイクロンや洪水といった自然災害など、どちらかというと負のイメージが強いのではないでしょうか。私自身も大学1年生の時に初めてバングラデシュを訪れた時には「貧しい国」という程度の認識しか持ち合わせていませんでした。そして、サウナ室にいるかのような高温多湿の気候、言葉では言い表せない独特なにおい、そして不衛生な都市環境に、この国にはもう来ないかもしれないと思ったことを記憶しています。 そんなバングラデシュにもう一度行こうと決意するきっかけとなったのは、バングラデシュで出会った、この社会を変えよう、自分たちの住む村をもっとよくしていこうと考え、行動する人たちの存在でした。この、自分たちの社会を「変える」ことを目指して活動する人びとに触発され、彼らの人生と、彼らが設立したNGOの活動をもっと知りたいと思うようになりました。そして、2004年の夏、当時大学院修士課程に在籍していた私は、ベンガル湾に浮かぶ島、ハティア島のNGOで長期間にわたりお世話になることになりました。ハティア島はバングラデシュで2番目に大きい島で40万人ほどの人口を有しています。ベンガル湾に浮かぶ自然豊かな島ですが、サイクロンの常襲経路に位置しており、サイクロンの度に大きな被害が発生する島です。 お世話になったNGO「DWIP UNNAYON SONGSTHA(ベンガル語で「島開発組織」の意味)」はスタッフ数250人程度の中規模NGOです。そこで私はスタッフについて村々をまわり、住民とNGOがどのような関係を築いているのか、NGOは地域社会においてどのような役割を果たしているのかを住民へのインタビューやアンケート調査、日常の何気ない会話などを通じて考えてきました。アプローチの変化──NGOとマイクロクレジット 日本ではNGOの社会的認知度は決して高いとはいえませんが、バングラデシュにおいては2500以上あるNGOが貧困削減や教育、保健の分野において重要な役割を果たしています。バングラデシュのNGOの多くは設立当初、緊急救援として海外から持ち込まれる援助物資の配給活動をおこなっていました。しかし、無料で配給される救援物資によって住民の援助依存体質が顕著になり、自分たちの生活を自分たちでよくしていこうという自助意識が弱くなってき

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