31Field+ 2012 01 no.731トルコを代表する国産ビール。エフェス・ピルゼン。すっきりとした飲み口が特徴。トルコ産ワインの数々。赤、白、ロゼなどが並ぶ。もっともポピュラーなラクである、イェニ・ラク。右のコップは水を加えて白濁している。かつては専売公社によってのみ生産と販売が許されていたが、2004年に民営化されて以降は、各社から様々な銘柄が生み出されている。大盆に載せられてテーブルまで運ばれる多彩な冷たい前菜。の品種としてはトカト地方のナーリンジェがフルーティーな辛口白ワインに、エーゲ海地方のスルタニイェとカッパドキア地方のエミルは中口から甘口の白ワインに用いられる。 最後に紹介するのは、トルコの国民酒とも言うべきラクである。伝統的にはブドウの搾り滓から、近年はブドウそのものからも製造される蒸留酒で、アルコール度は約45%と高い。東地中海が原産の香草であるアニスで香りづけをするため、独特の芳香があり、日本人には好き嫌いが分かれるところである。この無色透明の液体を縦長のグラスに注ぎ、水を注ぎ足すと直ちに白濁する。ラクが「ライオンのミルク」と綽名される所以である。 さらに氷を入れれば、いよいよ飲むことができるわけだが、通常は同じグラスをもうひとつ用意して、こちらには水と氷のみを入れ、チェイサーとする。高濃度のアルコールによって健康を害さないための先人の知恵である。また水より先に氷を入れる人がいるが、これは時として非難の対象となる。ラクが急激に冷やされることによって、エキス分が結晶し、味が変わってしまうためである。ちなみに、ラクにお湯を入れても白濁しないことは意外に知られていない。これは筆者が留学中、風邪をひいた際にもラクを飲もうとした悪あがきから偶然に発見されたことであるが、むろんトルコに「お湯割り」の習慣などなく、また味の方も新発見だと自慢できるような代物ではなかった。実際に飲んでみよう! ともあれトルコの人々は、とにかくラクを飲む。若者を中心にビールを好む者がいないわけではないが、トルコの酒飲みの大多数はラクの愛飲者である。ビールがせいぜいナッツと一緒に飲まれるリフレッシュメントの役割を果たしているのに対して、ラクは食事と楽しむ食中酒であることも重要な特徴のひとつである。ラクを飲むには、居酒屋に行かなければならない。もちろん街の雑貨屋やスーパーで売っていないわけではないが、前述のように食事と楽しむのがラクの醍醐味である。独り者や旅行者が料理とともにラクを味わうには、外で飲むのが一番である。 肉料理を食べさせる店にも、炉端焼き屋などにはラクをおいている店もある。しかし、ラクと言えば何といっても魚料理である。魚料理屋では、まず間違いなくラクを楽しむことができる。それから、トルコには居酒屋とも呼ぶべきメイハーネという場所がある。メイは「酔い」、ハーネは建物を意味するので、まさに居酒屋である。メイには酩酊の「酩」の字をあてたくもなる。 魚料理屋でも居酒屋でも、席に案内されたら、まずは飲みものを注文する。ちなみにトルコでは「お酒はチャンポンしない」という鉄則がある。ラクに始まればラクに終わり、ワインで始めればワインで終える。日本人なら「まずはビール!」といきたいところだが、二杯目にラクやワインを頼もうものなら外野からの「指導」が入ることもしばしばである。かく言う著者も、かつて偶然隣り合わせた人品卑しからぬ老紳士に諭されたことがある。 飲みものが運ばれてくると、だいたいの場合は、つづいて「冷たい前菜」を満載した大盆がやって来る。この大盆から、数種類の前菜を選んでいよいよ飲み始めることになる。ただし、ここであまり欲張りすぎると、この後の「暖かい前菜」やメインまで胃がもたない。また、意外に思うかもしれないが、メロンと白チーズはラクの最高の肴である。こうして、たっぷり2時間以上かけて、食事の間に楽しい会話をはさみながら、ゆっくりと酒杯を傾けるのがトルコ流の飲み方である。 トルコを訪れた際には、居酒屋に行き、ラクを頼んで「シェレフェ(乾杯)!」と言えば、気分はもう飲兵衛のトルコ人なのである。ラクの最良の伴侶たるメロン。右奥には白チーズも見える。暖かい前菜の代表格であるイカのフリット。ニンニク風味のソースとともに。メインの魚は、シンプルな塩焼きで。こちらは天然のヨーロッパスズキ。魚臭さを軽減するために生タマネギとルッコラとともに、レモンを絞って食べる。うっすらと赤みがかった身が特徴のテキルと呼ばれるヒメジの仲間。こうした小魚は、トウモロコシ粉をまぶしてフライにすることも多い。
元のページ ../index.html#33