1930年代2000年2000年1930年代25Field+ 2012 01 no.7ける耕作地の変遷や、熱帯雨林における商業的森林伐採の影響評価に用いた。こういった画像の解析は、リモート・センシングつまり、「遠隔から感知する」ことであり、現地に入り込むフィールドワークと反対の概念だが、両方を組み合わせることで、新しい発見ができるのである。GPSとGISをフィールドワークに役立てる 前述の大西氏や私は、環境の変化を知るために、過去に撮影された航空写真や衛星画像データを用いて、過去と現在を見比べた。タイムマシーンが無い以上、過去を知るために有効な手段である。 大西氏はまた、「水は高きから低きに流れる」という原則に従い、地形データから水文を解析した事例も紹介している。近藤康久氏(考古情報学、考古地理学・日本学術振興会PD)らが紹介した研究会では、地理的条件に基づいて、経路算出をした。これは、環境や人間の行動をモデル化する例である。 事例集には、考古学の研究事例がたくさん挙がっている。遺跡の精密な測量と、丁寧なビジュアル化によって、人や社会の営みを再現しようとしている。山口欧志氏(考古学、文化財科学・日本学術振興会PD)・近藤康久氏によれば、「文化に関わるさまざまな資料を総合する」という、人文社会科学の新たな領域を切り開くべく、文献資料、フィールド調査に加えて、高度な機材を使った測量と画像解析を行なっている。これは、現代の社会を研究することにも応用できるだろう。 GPSによる点と線と、リモート・センシングによるピクセルにすぎないデータを、私たちはこのようにフィールドワークと組み合わせることで、それまではわからなかったものを、解明できてきたと思っている。ただし、役立て方は人それぞれで異なり、研究のメインテーマになることもあれば、補助的ツールにとどまる場合もある。実際に使う中で、自分なりのテーマと手法を編み出して欲しい。まとめ:これから始める人のために さて、GPS・GISを始めてみようと思っても、敷居が高く感じるかもしれない。しかし、「習うより慣れろ」(編者一同)で、とにかく始めてみることが大事である。そのために、このムックで図3 ソロモン諸島で12人の村人が漁撈活動した軌跡をGPSで記録した地図。図4 ソロモン諸島でラグーン内から外洋へとカヌーで漕ぎだして戻ってくるまでの経路と心拍数を記録し3Dで表示した地図。図5 アムール川流域の土地利用を分類した地図:1930年代と2000年を比較(大西健夫)。図6 アムール川流域の湿地の分布(図5から湿地だけを抽出した)(大西健夫)。は、無料のソフトとデータを中心に取り上げた。また、使い方ガイドも、わかりやすいように、たくさんの操作画面を掲載しており、手順に従うだけで、一通りの作業を行なうことができる。また専門用語では、点と線はベクター型データ、ピクセルはラスター型データと呼ばれ、分析方法や適切なソフトにも違いがあるが、このムックは、どちらもカバーしているので、多くのニーズに応えられる。GPSや有料のソフトについても、安価なものや、広く普及しているものを紹介している。フィールドワークにGPSとGISを取り入れるきっかけにしてもらえれば幸甚である。 くわえてFieldnetワークショップ、そして本書によって得たスキルをもとに、研究者それぞれのGPS・GISの活用法を、Fieldnetの小規模な研究会、集まり等で紹介し議論しあえる機会があればと考えている。本ムックの専用サイトもご覧くださいURL: http://fieldnet.aacore.jp/category/books/gpsFieldnetURL: http://eldnet.aacore.jp ぜひフィールドワーカーのネットワークにご参加ください。サイトにアクセスし、Join usから登録してください。SNS型のウェブサイトにリニューアルしたばかりです。ワークショップ等、Fieldnetの企画情報や登録者間のコミュニケーションが得られます。
元のページ ../index.html#27