24Field+ 2012 01 no.7はじめに:フィールドワークにGPS・GISは必要なのか? フィールドワークする研究者を結ぶFieldnet活動の一環として、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)とGIS(地理情報システム)の使い方を、超初心者向けに、実践的に、説明するムック『フィールドワーカーのためのGPS・GIS入門』を編集した。コンピューターや機械が苦手な方でも、無理なく始められるように配慮し、基礎知識、製品・ソフトの使い方ガイド、様々な分野での実例集で構成した。 ところで、そもそもこういった技術はフィールドワークにどう役立つのか、としばしば問われる。私自身も、人類生態学を専門にしており、いまでも自分の目で観察し、聞き取り、計測・計量することが一番大切で、頭よりも足をよく使う。このムックでは、地理学、考古学、生態人類学、開発援助など、様々な分野や立場のフィールドワーカーが寄稿した。私たちの、フィールドワークでの活用事例やアプローチ方法を俯瞰すると、各分野、というより研究者ごとに工夫があり、GPS・GISの意義が見えてくる。ここでは、点と線と、ピクセルという視点から、紹介したい。点と線 まず、GPSは、人工衛星から発信される情報を受信することで、正確な位置を計測し、記録することができる。携帯電話やカーナビで、なじみ深いものになってきている。さて、緯度と経度を測ったところで、それを目に見える形にすると、地図上に点を打ち、線を引ける、ということしかない。白い紙の上に、いくつか点と線を描いたとして、それが何の役に立つだろうか? 三好崇弘氏(開発経済学・有限会社エムエム・サービス/JICA専門家派遣)は、これに答える、とても良い事例を提供した。彼は、アフリカにおける農村開発支援において、訪れた村々の場所を「点」として記録し、事務所からのルートや、村を巡回するルートを「線」として記録し、活動の効率化を行なったのである(図1、2)。 私が紹介したのは、南太平洋の漁撈社会において、住民にGPSと心拍数計をつけてもらい、活動の軌跡を記録したものだ。活動場所という「点」に、村人の漁場分類を重ねると、水深の浅い砂地、内海のサンゴ礁、広い外洋、そして外洋とサンゴ礁のぶつかる淵など、場所に応じた活動が見て取れた(図3)。また、点と点を結ぶ「線」に、心拍数を重ねると、各場所やカヌーでの移動における、身体活動量の上下動も見えた(図4)。 このように、ただの点と線に、他のデータを重ね合わせることで、フィールドでの情報が活きる、オリジナル地図になっていくのである。ピクセル 衛星画像や航空写真は、等間隔にならんだたくさんの画素、つまりピクセルに、色をつけることで、絵に見えている。「色」といっても、衛星画像などでは、目に見えない近赤外線なども感知できるようになっている。 大西健夫氏(水文学・岐阜大学)は、アムール川流域の土地被覆・土地利用、つまり土地を覆うものが、森か、草地か、湿地かなどを分類して、地図を作った(図5)。地図ができた後、「湿地」に分類されたピクセルだけを抽出することで、湿地の分布や面積を知ることができた(図6)。 画像でピクセルを分類することは、もっと小さな地域にも使えるのであり、私は堡礁島におフロンティア点と線と、時々ピクセル──フィールドワーカーにとってのGPS・GIS古澤拓郎 ふるさわ たくろう / 京都大学、Fieldnet運営委員、AA研共同研究員図1 ザンビア農村にてGPSを使って説明をする青年海外協力隊員(撮影:三好崇弘)。図2 ザンビアで農村の位置とそこへ至る経路をGPSで記録した地図(三好崇弘作成)。古澤拓郎・大西健夫・近藤康久編『フィールドワーカーのためのGPS・GIS入門』古今書院 ISBN 978-4-7722-7111-0価格:3,150円(税込)本誌第4号の特別企画でご紹介したFieldnet(フィールドネット)。今回はその活動の中から生まれた『フィールドワーカーのためのGPS・GIS入門』について、編著者の古澤さんにご紹介いただきながら、フィールドワークにGPS・GISを取り入れる意義について語っていただきます。(編集部)内容Section 1 基礎知識Section 2 GPSSection 3 無料地図ソフトSection 4 有料の高性能ソフトSection 5 フィールドからの事例集Fieldnetで寄せられた質問と回答
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