FIELD PLUS No.7
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13Field+ 2012 01 no.7チベット医学 各種の学問分野の調査研究における文字や画像などの視覚によるデータや音声などの聴覚に依存する情報の重要性に比べると、触覚の問題は相対的に軽視されてきたと言えるのではないだろうか。今回は、「触る」と題して、現地調査や研究における「触る」ことの重要性を教えてくれる3つのエッセイを掲載する。 まずオスマン朝史の専門家である髙松のエッセイは、歴史家が文書史料を研究する際には、実際に文書の実物に「触る」ことがいかに重要であるかを現場でのエピソードから紹介していく。文書の紙に手で触れた時の感触から、文書の内容に勝るとも劣らない豊かな情報を引き出すことが可能であるという。 次にインド西部に位置するグジャラート州、カッチ地方で染色を生業とするカトリーという集団に出会い、その染織品の調査を行っている金谷は、染織品の制作や技法の習得などの過程において、実際に数多くの布に触れることの大切さを自分自身の経験から語る。 最後の小川は、インド・ダラムサラにあるメンツィカン(チベット医学暦法研究所)病院で外国人のアムチ(チベット医)として勤務したというユニークな経験をもつ。チベット医学の実践における脈診をはじめとする「触る」ことの役割や意義について、やはり自身の医療現場での経験から紹介していく。 今回の特集を通じて読者は、ともすると学問の方法論のなかで看過されがちな、「触る」という行為がもつ重要性や、その奥深さの一端を知ることができるのではないだろうか。〈床呂郁哉 記〉

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