小麦粉に水を加えて練ったもの。4具を炒めたところに塩を加える。7123568麺料理牧畜と農業の出会いがもたらすもの チベットの2大基本生業は農業と牧畜であるが、私が主に調査を行っている東北チベット(アムドと呼ばれる地域)でも伝統的な生業は農業、牧畜またはその中間の半農半牧に分かれている。農民は大麦、小麦、菜種などの栽培を行い、牧民はヤク、羊、ヤギ、牛などの放牧を行っている。一般的に高地にある牧畜地域では小麦はとれないので、よそから手に入れなくてはならない。牧民の老人に話を聞くと、昔は小麦粉を買うために農業地域にわざわざ行ったり、時には行商に来た漢族から買ったりしていたそうだ。小麦粉からは、麺類や餃子、パンなどが作られる。アムド地方ではパン(現地のチベット語で「ゴリ」と言う)を日常的に焼いている。鍋をコンロにかけても焼くことはできるが、もともとは焼いた麦のもみがらや、熱した灰や土の中に一時間ほど放置して焼く。味はフランスパンに似ており、食事やお茶受けに食べられている。 農民が生産した小麦と、牧畜に豆などから作られたツァンパというものも存在するらしい。大麦が主たる農作物であるチベットと違い、インドではより手に入りやすい小麦をツァンパにしていたのだ。故国を知らない難民チベット人になんだか思慮のないことを言ってしまったと反省しつつも、一方で、大麦から小麦に姿を変えながらも難民社会にツァンパが息づいているという事実に感動を覚えたのであった。 チベット人が、自分たち全体のことを指して言う場合に「ツァンパを食べる人」という表現をすることがある。歴史学者のツェリン・シャキャによると、1959年――中国共産党のチベット支配に対しラサで人民が蜂起した年――にインドのカリンポンで発行されていた『チベット・ミラー』という新聞が出した中国への抵抗声明には、「ツァンパを食べるすべての人々へ」と書かれていたそうである。言葉、宗教、地域の違いを超え、チベット人を結び付けるために象徴的に用いられたのが、「ツァンパ」だったのだ。●材料(3~4人分)小麦粉:200グラム玉ねぎ:100グラム(大半分)大根:200グラムヤク肉(日本では手に入らないので牛肉で代用):200グラム塩:小匙2しょうゆ:大匙1.5水:120cc(小麦粉用)+ 800cc(スープ用)サラダ油:少量よって得られた肉や乳製品などを組み合わせると麺料理ができる。アムドの牧畜地域の麺類は、肉と一緒に調理するものの他、ミルクで麺を煮たものなどもある。 最後に、アムドの牧民家庭で教わった麺料理の一つをご紹介したい。肉や野菜を煮たスープに、小麦粉を水で練った生地を指でちぎっていれる、「テントゥク」という麺料理である。日本のすいとんのようなも●調理手順1:小麦粉に120ccの水を少しずつ加えて、べとつかない程度にまとまるまでよく練る。生地がまとまってきたら一つに丸め、30分以上寝かせておく。表面に軽くサラダ油をぬっておくと表面が乾燥しなくてよい。(写真1)2:中華鍋にサラダ油をひき、細かく切った肉と野菜を入れて炒める。塩を加え、しょうゆを鍋肌に回し、800ccの水を加え、さらに30分ほど煮込む。(写真2、3、4、5)のである。「テン」はチベット語で「引っ張る」、「トゥク」は汁気のある食べ物一般を指す「トゥクパ」という語に由来する。トゥクパは麺類だけを指すわけではなく、おかゆなども含まれる。チベット語には「麺」だけを指す単語は一般的にはないようであるが、アムド地方では麺のことを「フブ」と言う。フブとは「一ひと すすり」という時の「すすり」と同じ発音であるため、麺をすする様肉、大根、玉ねぎを細かく切っておく。水を加える。さらに煮込む。完成したテントゥク。よく煮込むと、野菜や麺に肉の味が染みて美味。肉と野菜を鍋で炒める。3:1 の小麦粉を練った生地を平たく伸ばして幅1センチくらいの短冊状に切り、片方の手にかけ、もう片方の手でそれを伸ばしながら1センチほどの長さに指でちぎり、先ほどの鍋のスープの中に投げ入れていく。ここで手間取ると麺の煮え具合にばらつきが出るのでなるべく手早く作業する(できれば数人で手分けして)。(写真6)4:これを10分ほど煮てできあがり。(写真7、8)子からその名がついたものと思われる。テントゥクの作り方は上のレシピの通り。 テントゥクはチベット文化圏全域で食べられている料理で、地域によってその具材は異なる。豚肉や鶏肉、羊肉を使う地域もあれば、ウリ、キャベツ、トマト、香菜などの野菜を使う地域もある。ぜひみなさんにも牧畜と農業の出会いがもたらすハーモニーを味わっていただきたい。小麦粉を練ったものを伸ばして鍋にちぎり入れる。31Field+ 2011 07 no.6テントゥク(チベット風すいとん)の作り方
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