フィールドプラス no.6
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す。というのも、グローバリゼーションには「新しい植民地主義」としての側面があり、それは文化人類学にとってはゆるがせにできない問題だと思ったからです。その講義をする中で、グローバリゼーションに対抗する社会運動の中から新しいスタイルの「アクティヴィズムの文化」が生まれていることを知りました。文化人類学者のデイヴィッド・グレーバーが「新しいアナーキズム」と名づけたものです。僕はそれに夢中になったのですが、マスメディアの偏向した報道のせいで、それがほとんど知られてないことに気づきました。同じく、マスメディアの報道のせいで、アナーキストがかつての「野蛮人」のようなイメージで語られていることに気づきました。異文化の理解と野蛮の脱構築は文化人類学の使命ですから、それをやらなければと思ったのです。 今、世界で起こっていることを伝えたいといっても、僕はテレビ局になりたいのかというと全然そうではありません。僕は、いわゆるマスメディアがとりあげないような、しかし今この同じ時代に同じ地球の上で起こっている、知らなければならないことを伝える、もうひとつのメディアになりたいのです。――最後になりますが、小田さんにとって人類学とは何ですか?【小田】僕は「自分さがし」ではなく「自分こわし」をしたくて人類学をはじめました。それまで自分があたりまえと思ってきたことや、自分がとらわれていた常識や価値観から解放されたいと思ったのです。自分と世界の見方を変えたかった。それが文化人類学の魅力で、文化人類学には時代の閉塞感を解放する力さえあると信じています。――小田さんはご自身について「文化人類学者になり損ねた」とおっしゃっていますが、今日のお話をうかがって、小田さんの歩んでこられた道は人類学のスピリットで貫かれていることがよく分かりました。人類学者の1人として大いに刺激を受けましたし、今の文化人類学という学問の在り方そのもの、実社会との関係を考えさせられました。本日はありがとうございました。AA研広報・展示活動メディア・アーティスト/アクティヴィスト活動いました。そのドラムにあわせて、人びとが声をあげ、歌い、魂をとりもどす行進が進んでゆく。ドラムの音がつくりだす一体感にすっかり夢中になりました。音の力を感じました。 そのことがあったので、イラク反戦のデモのときも、まっさきに「ドラムだ」と思い、ドラムを持って参加しました。このイラク反戦の運動の中から「サウンドデモ」という新しいスタイルのデモが生まれました。それは大きなスピーカーを積んだトラックから、テクノやハウスなどの音楽を大音量で流し、それにあわせてデモをするというものです。その後「サウンドデモ」は、日本でのデモの新しいスタイルとして定着しました。こうした僕のデモ活動の原点は、ケニアでのフィールド体験にあると思います。 一昨年刊行された『ストリートの思想——転換期としての1990年代』(日本放送出版協会、2009年)という本の中で、毛利嘉孝さんが僕のことを「ゼロ年代のストリートの思想家」の一人としてとりあげ、特に僕のメディアの使い方について注目してくれています。こうした「メディア」を使った活動もフィールドワークでの経験が原点となっています。シャーマンが語る霊の世界は、現実世界についての断片的な知識や情報を集積したアーカイヴのような様相を呈しています。もともと僕はそのアーカイヴを研究しようとしていたのですが、気がついたら、自分自身がメディアになってしまっていました。毛利さんが書かれているように、マスメディアがとりあげない世界のさまざまな出来事や新しいスタイルの社会運動の動向をレクチャーしたり、デモのためのポスターやプロモーションビデオをつくるというインディペンデントなメディア活動をしていました。 きっかけになったのは2005年から担当している文化人類学の講義です。2008年に日本でG8サミットがひらかれることになっていたので、それにあわせて、G8が推進している「グローバリゼーション」というものを、それに反対し抗議している人たちの側から知るという講義をやったので27「臺灣資料:テキスト・音・映像で見る台湾 〜一九三〇年代の小川・浅井コレクションを中心として」展広報ポスター(2005年)。R.L.A.T. 変容人類学研究室制作「トランス-フォーメーション-サイクル」アーカイヴ展示(2010年、東京都現代美術館 )のためのサイト。 「中東・イスラーム研究/教育セミナー」広報ポスター(2007年)。「スタジオフォトグラフィ・アズ・ア・ドリームマシン/夢を創る機械としてのスタジオ写真ケニアのスタジオ写真家たち1912-2001」展広報ポスター(2010年)。「スタジオフォトグラフィ・アズ・ア・ドリームマシン」展インスタレーション (2010年)。「夢の原子力エネルギーから、悪夢の原発事故までの半世紀」をテーマに、原子力エネルギー、核兵器、反核運動、原発事故などをとりあげたマンガ、雑誌、その他さまざまな資料をもとにしたアーカイヴ展示「アトミックラウンジ」展(監修=小田マサノリ)の展示風景(2011年、東京・神保町、撮影=原田淳子)。福島第一原子力発電所の事故をうけ、2011年4月10日に東京の高円寺で行われた反原発デモのために制作した海外向け広報ポスター。「好奇字展」展示品「水文字エレクトロニカ」(2006年)。「アラビア文字の旅〜線と点」展インスタレーション(2004年)。Field+ 2011 07 no.6

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