フィールドプラス no.6
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削ることによって、何が分かるのでしょうか?また、削ったり、掘ることにこだわって、フィールドワークをするのはなぜでしょうか?過去をつなぎ、異分野をつなぐ仕事とは?写真1 滋賀県、守山市の弥生時代の遺跡での調査風景(左端が著者)。考古学の遺跡の場合、世間的な注目は、「最古の……」のような遺物(モノ)だが、私は、トレンチ(壁)の堆積物に夢中になって、なぜ、この場所に、ヒトが住み始めたのか? ということに興味をもって調査している。図1 主なフィールドであるヒマラヤ東部地域とブラマプトラ川流域。中国ネパールインド過去図2 埋没腐植土層の形成モデル。堆積変化型は、地すべりや火山灰の降下など急速な堆積作用によって過去の地表面が保存された場合、植生変化型は、火入れを伴う土地開発が過去の地表面の土壌化を促進させた場合。植生・堆積変化型は、両者が組み合わさったもの。堆積変化型植生変化型植生・堆積変化型写真2 インド北東部、アルナーチャル・プラデシュ州のタワン近郊の埋没腐植土層(黒色部)(人物は、京都大学・院 石本恭子さん)。現在考古少年、地理学から環境考古学の道へ 私は小さな時から遺跡大好きな「考古少年」でした(写真1)。当時はいっぱしの考古学者気取りで、自転車で遺跡探検に出かけていました。当然、大学では考古学を勉強する予定が、自然科学も人文・社会科学も勉強できるといううたい文句に誘われて、地理学を学びはじめました。 このように、私は地理学を専攻し、「自然環境の変化と人間活動の対応関係の解明」を研究テーマにしています。またこの研究テーマは、歴史学や考古学などの異分野の研究とつながりが深く、環境考古学や環境史とも呼ばれています。 ここでは、私自身の経験から、研究やフィールドワークの魅力についてご紹介します。土地の履歴 大学院の博士課程の時、指導教官から「ヒマラヤに行ってみないか?」と誘われました。もともとヒマラヤという高所への憧れをもっていましたので、二つ返事でヒマラヤに出むき、今に至っています(図1)。 ヒマラヤでは、研究のトピックとして、高所にいつ、どのようにしてヒトが住み始めたのか? という議論があり、それをテーマにしました。ほんとうは、ヒマラヤでの山登り・トレッキングがたいへん魅力的だったのですが、あえて、ここでは書きません。 過去を対象として研究する場合、日本のように文字記録や、考古学の情報が豊富な地域はまずありません。したがって、言語学的な情報や、伝説などが研究素材として用いられますが、この情報も限定的です。もちろん、ヒマラヤも状況は同じです。そのような中、「埋まい没ぼつ腐ふ植しょく土ど層そう」という堆積物の層に注目しました(写真2)。 ある土地において、山野を焼くなどの火入れを伴う土地開発が行われていた場合、当時の地表面の土壌化が促進され、その後の堆積作用によって、当時の地表面が埋没して残されます(図2)。また、この埋没腐植土層中には、火入れの痕跡として、炭化した木片(炭)(写真3)を含む場合もあります。 つまり、ヒトの土地への働きかけ(土地開発)によって形成された埋没腐植土層の各種分析から、当時の自然への働きかけの一端を明らかにできます。例えば、埋没腐植土層に含まれている炭化した木片の年代測定から、いつこの地に火入れを伴う土地開発が行われたか、ということが分かります。さらに、埋没腐植土層中に含まれている花14Field+ 2011 07 no.6宮本真二 みやもと しんじ / 滋賀県立琵琶湖博物館、AA研共同研究員バングラデシュブータン掘る1削って、掘って、 そして、つなぐ

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