フィールドプラス no.5
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タイ北部チェンマイにある寺院の門標。真ん中に大きくタイ文字で、その上に小さくタム文字とシャン文字で、「ワット・パーパーオ」(寺院の名)と記されている。Field+ 2011 01 no.5この特集は特別推進研究(COE)「アジア書字コーパスに基づく文字情報学の創成(GICAS)」(研究代表者:Peri Bhaskararao, 2001〜2005)の成果をもとに構成したものです。URL http://www.gicas.jp/2 文字も旅をするのだろうか? そう、はるか昔、麦や稲が人々の手にたずさえられ、様々な土地に持ち込まれ、ひろがって行ったように、文字も、船に乗って海を渡り、積み荷とともに砂漠や山を越え、人々とともに旅をしてきたのだ。そして人の住むあらゆるところにたどり着き、その地に根ざし、数々の工夫をほどこされ、様々な用途で用いられてきた。ときには呪術的な力をもつもの、権力を示すものとして。ときには便利な道具として。 私たちの住むアジアは、世界で使われている文字のほとんどが生まれた土地だと言っても過言ではない。漢字、アラビア文字、そしてインド系文字。中でも群を抜いて多様なのがインド系文字である。インドではデーヴァナーガリー文字をはじめとして10以上の文字が使われている。東南アジアに目を向けると、ミャンマーのビルマ文字、タイのタイ文字、カンボジアのクメール文字やラオスのラオ文字も、インド系文字の仲間である。また、あまり知られていないかもしれないが、インドネシアのバリ島でも、インド系文字に由来する文字、バリ文字が用いられている。ヒマラヤを越えてチベットにも伝わった。漢字やアラビア文字に比べ、多様性に富むあまり、その全体像はほとんど知られていないのではないだろうか。 この特集では、多種多様な現代のインド系文字が、いったいどのような旅を経てきたのか、その旅の歴史をめぐるいくつかの物語をご紹介する。案内役をつとめるのは、言語学、宗教学という専門をもちながら、インド系文字がたどった旅の道筋を解明しようとフィールドワークを重ねてきた3人の研究者である。話題はまずインド系文字のはじまりから説き起こし、そして東南アジアの人々がどのように文字を受け入れ、工夫をほどこしてきたかという話、最後に東南アジアに残された碑文と最新の遺伝子研究から読み解く謎の解明の物語まで、4つの話をご用意した。 前置きはこの辺りにして、さっそくインド系文字の旅へご案内しよう。責任編集 町田和彦巻頭特集旅するインド

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