フィールドプラス no.5
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Field+ 2011 01 no.5(1)石森大知『生ける神の創造力——ソロモン諸島クリスチャン・フェロー  シップ教会の民族誌』(世界思想社、2011年2月刊行予定)(2)海外学術調査総括班フォーラムについては下記ページをご参照ください。  http://www.aa.tufs.ac.jp/~gisr/forum.html(3)吉岡政德・石森大知編『南太平洋を知るための58章——メラネシア・ポ  リネシア』(明石書店、2010年)29ニュージョージア島の村落付近を縦横にはしる森林伐採業者の林道。近年、とくにインドネシアやマレーシア系企業がソロモン諸島で伐採操業を盛んに行っている。アングリカン系メラネシア教会の修道士たち。彼らは、首都ホニアラで顕在化した紛争の終息に向けて多大なる貢献をした。聞き取り調査の様子。ツバルにおける浸水の様子。サンゴ礁起源のツバルの島々は平均海抜が1.5メートルほどであり、島の周囲の潮位が上昇すると、内陸部から海水が湧き出してくる。当事者を呼んで和解儀礼も執り行いましたし、各種の講習会や開発プロジェクトなども実施しています。人びとが国家や政治家を全く信用しておらず、いかに教会に頼っているのかが紛争を通して見えてきました。紛争についての人びとの経験、特に国家や教会との関係を詳細に調査することは、現在のソロモン諸島の人びとについて知る上で欠かせないものなのです。【石森】 このプロジェクトの目的は、環境変化に脆弱な太平洋の環礁において、どのような変化が起こっているのか、また今後どのような変化が起こりえるのかを明らかにすることで、海洋生物学、海岸工学、地質考古学、文化人類学など複数の学問分野の研究者が集まった文理融合プロジェクトでした。短期間の調査でしたが、いろいろと学ばせていただきました。【石川】 この調査で驚いたことはありますか?【石森】 まずは調査にかける時間の違いです。人類学研究では初めての地域に行って1週間でできることは限られていますが、理系研究者は1週間程度で集中的にデータやサンプルを収集します。また理系研究者がGPSなどの機材の扱い方に習熟しているということもさることながら、例えば、地質考古学の専門家は、私が全く気づかない微妙な地形の差異を見抜くこと、そこに深い意味があることに驚かされました。一緒に調査をしていて理系の人たちもよい意味で感性に基づいて研究をしており、共有できるものがあることに気づいたこともよい経験でした。同じときに同じフィールドで調査をしたからこそ知ることができたのだと思います。 Fieldnet~新たな共同研究に向けて~【石川】 本誌第4号で紹介しておりますが、AA研ではFieldnetというフィールドワークを行う研究者のネットワークを組織しています。石森さんはこのプロジェクトの立ち上げから現在まで中心的に活動していますね。Fieldnetという「名付け」にも関わったと聞きました。現在はAA研のスタッフとして運営に関わっておられます。【石森】 はい。Fieldnetもかなり参加者が増えてきました。最近南太平洋に関する入門書を出版したのですが、その執筆者探しをするときにも役に立ちました(3)。研究者同士が知り合うという役割をもっと果たせるように、またそれがしやすいシステムになるように改善していかなければならないと思っています。GPSの扱い方など自分たちがフィールドワークを行う上で学ばなければならないと思った技術などの講習会も「Fieldnetワークショップ」として実現しています。Fieldnetが個人研究の質を高め、また新たな共同研究を生み出す場になるように、今後も運営に関わっていきたいと考えています。【石川】 最後に、石森さんにとって文化人類学の魅力とはなんですか?【石森】 フィールドに赴いて人びとと生活をともにし、自文化との違いから生じるわくわくするようなカルチャー・ショックを通して、異文化を理解していくことにあると思います。【石川】 今回のインタビューを通してそのような文化人類学の魅力が読者の方々にも伝わったと思います。本日はありがとうございました。理系研究者とフィールドへ ソロモン諸島~数値の重要性を知る~【石川】 石森さんは理系の研究者の方々との共同研究の経験が豊富で、ソロモン諸島で調査を始めたきっかけも理系中心の研究プロジェクトでしたね。【石森】 東京大学大学院医学系研究科のソロモン諸島研究プロジェクトは、森林伐採が環境や人びとの生活様式へ与えた影響を明らかにすることを目的に行われました。私自身は森林伐採によって得られる現金収入が人びとの食生活と身体に与えた影響を調査するグループのお手伝いをしつつ、個人研究として土地所有慣行についての人類学的な研究を行いました。【石川】 食事調査は長期に及ぶでしょうし、身体計測も統計学的に意味のある結果を得るためのサンプル集めは大変でしょうね。【石森】 このときの食事調査はこれまでの調査の中で最も大変でしたし、身体調査では1000人以上の身体計測を手伝いました。私は数値で語れないものを知ろうとして人類学研究を始めたわけですが、逆にこのプロジェクトに加わって数値を導き出すことの大変さ、1つのグラフが汗の結晶であることがよく分かりました。例えば社会開発について複数の学問分野の研究者が集まって共同で研究をすると、人類学者だけが数値に弱く議論に参加できないことが往々にしてあります。これではいけないと思い、統計学の勉強も始めました。 ツバル~フィールドをともにして感じる~【石川】 地球温暖化による海面上昇の影響が心配されているツバルで、理系研究者と共同調査をなさいましたね。AA研の海外学術調査総括班フォーラムでも報告していただき、大きな反響を呼びました(2)

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