僕は天然のミカヅキモを採集するために、フィールドワークを行っている。すると「いったいなぜ? 何のために?」と尋ねられる。生物の進化を研究するためだったりと目的は色々あるが、解答としては「面白い」、これに集約できるのではないだろうか。正直なところ、この理由が一番大きい。台湾での採集風景。顕微鏡をのぞき、ミカヅキモがいるかどうかを確かめている。14 みなさんは「ミカヅキモ」という生き物をご存知だろうか。生物の教科書などで一度は見たことのある三日月型の「藻」のことだ。キャッチーな名称なので記憶している人も多いだろう。 僕は天然のミカヅキモを採集している。目的は、生物の進化を研究するためだ。日本各地はもちろんのこと、世界中の湖や水田にミカヅキモを採りに出かけている。今回はこの話をしてみようと思う。ミカヅキモとは? ミカヅキモは、陸上植物にもっとも近い単細胞生物である。彼らは、世界中の湖や湿地、水田に生育しており、様々な大きさと形の種類が500種以上も報告されている。1個体につき1細胞と構造が単純なため、ミカヅキモを使えば構造が複雑な多細胞植物ではできない実験や研究ができる。 実はこのミカヅキモには雄と雌がいる(正確には+、−と呼ぶがまあ良いだろう)。この雄と雌、通常は分裂を繰り返して増殖している。しかし、栄養が無くなるなどして生活環境が悪化すると、雌雄が互いに見つけあい融合する。こうして「接合子」と呼ばれる植物の種子のような状態になるのである。固い殻で自分を守りながら休眠し、環境が良くなると、接合子からミカヅキモが発芽する。どんな研究? このミカヅキモ、太古は一種類長野の水田。緑色のもやもやが全てミカヅキモ(中)。その緑色の部分をシャーレにのせて接写したもの。これは大型の種類で、細胞の形がわかる(下)。だったわけだが、長い年月をかけて、色々な形や大きさの種類に進化してきた。僕が見ている今の形になるまで具体的に何が起きたのか不思議に思う。しかし、この疑問に答えてくれる人は世界中のどこにもいない。だから答えを知るために研究をしているのである。 生物がこのように進化する最初の一歩は、2つのグループの間で、完全に交流がとだえることである。そこで僕はミカヅキモの性フェロモンに注目することにした。 ここで「性フェロモン」について説明しよう。性フェロモンはタンパク質の一種だ。ミカヅキモは口や耳を使ってコミュニケーションをとることができない。そんな彼らの、唯一ともいえる会話手段が性フェロモスロバキアドイツ日本台湾インドネシアニュージーランドField+ 2011 01 no.5Field+ 土金勇樹 つちかね ゆうき / 日本女子大学理学部学術研究員ミカヅキモを探しに世界をまわる採る 1
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