Field+ 2011 01 no.512 生物進化の謎解きに挑む進化生物学。ミカヅキモの性フェロモンを研究する著者は、実験室にこもるばかりではなく、研究材料を自分で採集しに行くフィールドワーカーでもある。さまざまな種類のミカヅキモを求めて世界中をまわる。フィールドに出てミカヅキモに出会う喜び、実験室では体験できない「向きあえた」感覚。その中から新しい研究のアイディアへとつながることも多々あるという。フィールドワークでの採集と実験室の双方の作業から生まれるあふれんばかりの可能性が感じられる。 未知の言語を対象とするフィールド言語学。インタビューを通じて、また物語などの語りを記録することで、言語そのものの構造の解明だけでなく、人々の暮らしの中にある言語や文化を学ぶ。調査の現場ではなるべく自然なデータを採ろうと努力するが、物語などの語りは特に人々の生活の場と密接に結びついており、引き出すのは簡単なことではない。さらに採ったデータを研究者の自己満足に終わらせずに、現地の人々とどのように共有し生かすか。著者はコミュニティとの意思疎通をはかることにあると強調する。 文化人類学は人間の「文化」を扱う分野なので調査方法もさまざまだ。とりわけ「アイデンティティ」という、とっつきにくく見えにくいテーマを扱う場合、何をデータとして採るべきかを常に考え悩みながら、とにかく人々と日常をともにする。一見「フラフラしてばかり」いるようにみえても、それが一つの重要な調査方法なのだ。 3人の若手研究者によるフィールドワークに対する熱意と意気込みを、それぞれの分野から発します。〈椎野若菜 記〉フィールドワークって何? テーマ:「採る」
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