3Field+ 2010 07 no.4責任編集 床呂郁哉 イスラームというと、ともすると「中東の宗教」というイメージが一般的には強いのではないだろうか。たしかにイスラームは、西暦7世紀前半に預言者ムハンマドがアラビア半島で創始した宗教として有名である。しかしイスラームはその後、西暦13世紀頃までには既に西は北アフリカから東は東南アジアに至るまでの広大な地域に浸透していった。 意外に思う読者もいるかもしれないが、現在、ムスリム(イスラーム教徒)の人口が世界で最も多い国は、中東のいずれの国でもなく、他ならぬ東南アジアに位置するインドネシアである。また東南アジア全体でも、イスラームは域内で最大の宗教であり、イスラームは同地で単に個人の内面的信仰の領域のみならず、食事や衣服などの日常生活の内容にも強い影響を及ぼしている。また近年の世界的規模のイスラーム復興の動きとも呼応して、イスラームは東南アジアにおいて政治や経済などといった公共的な領域においても影響力を増しつつある。 今回の特集ではAA研「東南アジアのイスラーム(ISEA)」プロジェクト※のメンバーによって、東南アジアのイスラームの「いま」を具体的に紹介する。森、小河、塩谷はフィリピン、タイ南部およびジャワの村落で目にしたイスラームの姿を具体的に紹介している。また見市、床呂、西井はそれぞれインドネシア、フィリピン、タイにおける政治とイスラームの関係について、やはり現場での調査経験に基づいて考察している。いっぽう福島と富沢はイスラームと経済活動とのユニークな結びつきについて現地での知見をもとに報告する。今回の特集を通じて、これまで中東などに比べて日本であまり知る機会のなかった東南アジアのイスラームについて、読者の方々が少しでも具体的なイメージをつかむことにつながれば幸いである。※ISEAプロジェクトの詳細については以下のウェブサイトをご覧ください。http://www.aa.tufs.ac.jp/fsc/isea/ムスリムの共食儀礼(ムスリムが揃って共に食事をし、神に感謝を捧げる儀礼)。マレーシア、サバ州にて。スラームの現在
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