FIELD PLUS No.4
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23Field+ 2010 07 no.4の様に人々を動かす力が働いた、そう考えられる絵である。 注目すべきは、東京・大阪・名古屋の3都市が作るポテンシャルの谷であろう。人口が集中している地域は、やはり人口密度ポテンシャルも深く凹んでいるのである。細かく見てみると、3都市による凹部と凹部の間が、相対的に高い尾根の様な形状になっている。また人口密度に働く力の分布が、人口集中の中心部に向かい尾根を境として、あたかも分水嶺の両側の様に見えている(図3)。こうしたことから、人口密度ポテンシャルの尾根の近辺が、人口密度によって定義づけされる大まかな3都市の言わば勢力の境界と見ることができる。人文地理学等の見地から引ける境界線と、比較できれば面白いかもしれない。 この様に人口密度ポテンシャルを図示すると、閉じた等高線の範囲や力を示す矢印の分布を頼りにして、人々が生活の中でどこに視線を向けて居住しているか推定したり、都市の勢力圏とでも言うべき範囲を規定したりできる。 もうひとつ、東南アジア大陸部の国ミャンマーの例を見る(図4)。第1の都市ヤンゴンによる深いポテンシャルの谷が南部に見られる他、その北方に第2の都市マンダレーとその南側地域に広がるポテンシャルの谷がやや浅く見られる。両都市の中間部では、ちょうど日本の3都市圏の関係の様に、ポテンシャルが尾根状になった領域が存在する。この様なポテンシャルの尾根では、人が両都市に引かれて去る傾向がある筈である。しかし同時に分布形状が平坦に近いことから、両都市の能性を持っている。ここまで見た様な、国単位のスケールで住民の居住を分析する事例の他にも、例えば算出した力の向きと現実の交通網の向きを比較することで理想的交通網と現実との差異を分析したり、都市計画立案や流通事業の採算性見積もりに利用したりすることが考えられる。 また、この概念自体を人口密度分布以外の分布量に適用することも可能だと考えている。例えば方言の分布を、話者人口の密度や比率として数値化することができれば、方言ポテンシャルとでも言うべき量を求めることができる。それは現在の方言・言語分布がどういった言語学的「力」により成立しているのか、考える上でのひとつの素材となるかもしれない。 いずれにせよ、この分析の手法や内容をさらに高度化させるには、数値計算結果の意味付けを変えることが重要になってくるであろう。現段階での人口密度ポテンシャルは、地図上の各メッシュ相互に相対的な意味を持ち、メッシュ間の比や差のみが分析の対象となっている。これにフィールドから得られる情報を加味することで、各メッシュの値自体に単独で意味を持たせることができれば、地域を記述する尺度として計算結果をそのまま用いることが可能となる。そうしたことを実現し将来的には、定量的分析とフィールドでの調査結果とをあたかも車の両輪の様に協調させて、地域の知識を高め、様々な理解を深めることができればと考えている。影響がちょうど釣り合って、作用する力が弱くなる場所であるとも考えられる。つまり、両都市固有の様々な社会・文化的影響が、距離的な近さの割に低く抑えられた地域である可能性が推定できる。 ミャンマーの現軍事政権によって建設された新首都ネピドーがこの領域の近辺にあるのだとは、この地域に関係する研究者からうかがった話である。ピンマナ市近郊のこの場所には元々軍用地が存在し、そこを利用しての新首都建設であったと言われているが、なぜここなのかその真意は明らかではない。批判的世論と常に対峙してきた軍事政権はおそらく、国民的な民主化運動の基盤となっているヤンゴン等の大都市圏から、地理的になるべく離れた場所を新たな政治的拠点としたかったであろうことがひとつ推測できる。その一方で、それら大都市圏が国家の中枢的地域であることもまた厳然たる事実であり、そういった重要地域から拠点を著しく遠ざけてしまうことも得策とは言いがたい。こういった視点を交えると、人口密度ポテンシャルの分析から推定される「ミャンマー第1・第2の都市の近傍でありながら、均衡の作用によってそれらの影響が比較的小さくなる」地域と実際の新首都建設地が近接していることが、何やら興味深いものに見えてくるのだが、いかがであろうか。 4.ポテンシャルの概念の発展 以上の様に、議論の余地を残しながらも、人口密度ポテンシャルという概念は種々の興味深い可360340320300280500400300200100350 400 45050 100 150 200 図3 図2の東京、名古屋、大阪付近を拡大したもの。図4 ミャンマーの人口密度ポテンシャルと力の分布。

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