FIELD PLUS No.4
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22Field+ 2010 07 no.41.人口密度の不均衡形成についての疑問 なぜ人は都市部等特定の地域に惹かれ、そういった特定の地域ではない場所から去ろうとするのだろうか。 もちろん直接的な原因は様々であろう。しかし、原因を含む個別の要因には目をつぶり、人の分布の変化だけを純粋に取り出した場合、「人口密度分布」の変化というただひとつの現象として、人の移動を単純化して捉えることができる。この様な「モデル化」を踏まえ、冒頭の疑問をこう言い直してみたい、「なぜ人口密度分布の大小は生まれるのだろうか」。 人口密度分布は、単位区画毎の人口密度を算出しそれを地図上にならべて、人口密度がどの様に分布しているかを示したものである。人がどの地域に集まっているかを統計的事実として直感的に理解する為に重宝する量だが、しかしそれだけではない。数値的な処理を行うことで分析を一歩進め、人口密度分布を直接眺める以上の、より多くの隠された現象を炙り出せる場合がある。そういったひと手間によって前述の疑問に関するひとつの分析を行う為に、ここでは「人口密度ポテンシャル」という概念を紹介したい。2.人口密度ポテンシャル 自然現象の中に見られる様々な分布量を観察すると、偏りが増大する方向の変化が自発的に起こることは稀であることがわかる。良い例が海面である。海面は、何も力が加わらなければ平らなままだが、風が吹いてさざなみが起こったり地殻変動によって津波が発生したり、外的な力が加わった場合に波の凹凸として偏りが形成される。 都市部への集中等をはじめとする人口密度分布の偏りも、海面を波立たせる風の様な、何かしらの社会的現象に基づく「力」が働いている結果、それが形成されたとは考えられないだろうか。そういった何らかの力が人口密度に加わった結果として現在の人口密度分布が生じている、ということを思考の出発点とし、逆にその力について考えてみよう。 上述の様な人口密度にかかる力をその勾配として定義する形で、人口密度ポテンシャルは導入される。つまりあたかも、斜面を物が転がり落ちる際の様な力が働くことで、人口密度ポテンシャルの谷底には人が集まって都市等人口密度の高い地域が形成され、逆に人口密度ポテンシャルが山の様な出っ張りになっている地域からは人々が立ち去って人口密度が低くなるという具合に考えるのである(図1)。この様に定義された人口密度ポテンシャルを数値計算で求めれば、人口密度分布に対して働く力を直接分析できる。3.人口密度ポテンシャルを見てわかること 馴染み深い例のひとつとして、日本の人口密度ポテンシャルを図2に示す。座標軸の数値はメッシュ番号を表す(図3と図4も同様)。メッシュとは、数値計算の為に、地図全体を網羅する様に細かな四角で分割した、その領域ひとつひとつのことである。背景のカラーで示された人口密度分布(赤黄白等が人口密度の高い地域)から計算した人口密度ポテンシャルの値を、等高線として表記している。矢印は、人口密度ポテンシャルから求められる、人口密度に対して働く力を表している。等高線で示された凹みの深まる方向へ、矢印550500450400350300250200200 300 400 500フロンティア人を動かす見えない力 ──「人口密度ポテンシャル」が語るもの梅川通久 うめかわ みちひさ / AA研非常勤研究員図1 人口密度ポテンシャルの考え方。赤丸が示す人の集団は、ポテンシャルが低い位置へと落ちる様に移動する。図2 日本の人口密度ポテンシャル(日本列島の線画は目安であり厳密ではない)。人口を調べることは、地域の実態を知る上で有効な切り口のひとつである。直接分析する以外にも、数値的方法によって隠れた情報を引き出せる場合があるが、ここで取り上げる人口密度ポテンシャルの計算も、その手法のひとつである。地図上の位置ポテンシャルの高さ

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