21Field+ 2010 07 no.4 中国はこれまで発展途上国であるアフリカ諸国に政治的経済的な支援を行ってきたので、アフリカ諸国から比較的高い評価を受けている。中国国民に対する出入国の規制は緩やかであるが、他の国より遅く1990年代に中国と外交関係を結んだ南アフリカは、例外的に入国に対して厳しい。話によると、新移民がよく使う渡航の方法としては、まず比較的入国しやすいレソトなどアフリカの他の国に入り、そこからいろいろな方法で南アフリカに入る。その方法には入国審査の際、パスポートにお札を挟んでおいて入国審査官を買収することもある。福建出身者の殆んどがこのようなルートで南アフリカに入ったという。冒険と辛抱から越境起業家へ 北米や日本に渡った中国系新移民は本国での出身地も移住先の職業も多岐にわたる。しかし、南アフリカに移住した新移民は福建省の出身者が多く、その殆どが自営業の性質を持つ起業家である。 彼らが南アフリカに来て携わる最初の仕事は、主に中国から持ってきた多くの衣料品や日用雑貨などを行商することである。話によると、南アフリカでは、特に商品流通が遅れている辺鄙な地域では商品の需要性が高く、どんな品物でも中国より何倍も高く売ることができる。 福建の移民は昔から冒険好きで辛抱強いという評判がある。東南アジアにおける従来の中国系移民の大半は福建の出身者であり、こつこつ働く特性から商売の成功を収めた人は多い。南アフリカへ渡った新移民もそのような特徴が見られる。彼らは将来大きな商売につなげるために、最初は辺鄙な田舎に住み、住宅を兼ねた店舗でこつこつと商売しはじめる。そこの生活環境がたとえ中国の故郷より悪くても辛抱ができる。こうして資金をため、もっといい場所へ、そして、起業しさらに新しいビジネスに挑戦する。越境するネットワーク こうして新移民は近年南アフリカの都市や町、農村部における商品流通と商品経済の発展に大きな役割を果たすようになってきた。とりわけ財力の豊かな一部の商人は南アフリカや近隣諸国の市場の需要に応じて、2、3ヶ月おきに中国との間を行き来し、浙江省にある浙江義烏マーケットなどから仕入れを行っている。義烏は中東やアラブをはじめとする世界百数十カ国からバイヤーが集まるアジア最大の日用雑貨、小物卸売市場である。大量の中国製衣料品、靴、帽子など軽工業製品が海路コンテナで南アフリカの港へ運ばれ、南アフリカ国内各地の町々や村落部、さらには近隣諸国に点在する中国人の小商人、あるいは一部の現地人商人に卸売りされ、そこからさらに小売りされてゆく。日曜日になると、ヨハネスブルグにある3つの中国商品の卸売市場には、南アフリカ各地や近隣の国々から多くの中国人が集まってくる。彼らはそこで商品の仕入れをするが、手にしたやまほどの荷物を、その日のうちに小型のトラックに積んでそれぞれの町や村へ運ぶ。このように中国系新移民によって自発的に形成された多層的な越境貿易のネットワークを通して、毎年膨大な量の中国製の安価な商品が、南アフリカを中心とする周辺各国へと運ばれる。 南アフリカ福建同郷会会長N氏はこうして成功した新移民の起業家の一人である。彼はヨハネスブルグに貿易会社や中華料理店、そしてダイヤモンド工場なども設けている。それだけではなく、彼はその職や地位、及び出身地との繋がりを活かしながら、中国に投資し、工場建設や不動産の経営などのビジネスを展開している。さらに彼は中国地方政府と南アフリカとの間の経済的・文化的な関係をとりもつ仲介者としての役割も果たしている。中国と南アフリカとの間の経済的結びつきは、まさに彼のような新移民によってスタートしたものであって、彼らによって作り上げられた越境する社会的経済的ネットワークは国家のみによっては果しえない役割を担っている。世界各地に広がる新移民 中国が1978年に改革開放を始めて以来2008年で30年になるが、この間に、経済の発展、政治的影響力の増大に伴い、国際社会から次第に注目を集めるようになってきた。一方、1980年代以来、地球規模の人口移動が絶え間なくなされ、それはグローバル化のもっとも重要な特徴の1つとなっている。このような国内外の環境の中で、中国人の移動は国際人口移動の一環として、モノ、カネ、情報とともにますます越境が進み多様化してきている。ここで紹介した南アフリカの新移民はその一例であるが、最近新移民の新しい動きが見られる。 1980年代末から新移民はおもに欧米や日本など比較的には経済発展の高い国へ移住したが、しかし、 2005年前後より新移民はアフリカや南米など、特にこれまで中国が援助してきた諸国への移住が目立つようになっている。たとえばナイジェリアには2010年現在約15万人の中国人が在住し、エチオピアに在住する中国人の中で、新移民は大きな割合を占めている。改革開放当時中国に入った欧米や日本などの外資企業と同じように、新移民はこれらの諸国に投資し、工場や農場、企業を作るなど、あらゆる分野にその活動が見られる。そこで生産された商品を現地だけではなく、世界各地へ販売しまわっている。これからは従来の「海水いたるところに華僑あり」から「陸地いたるところに中国人あり」という世界になってくるであろう。ヨハネスブルグ市内にある福建同郷会(2008年)。ヨハネスブルグ市内にある中国商業モールの看板(2006年)。中国商業モールの外観と取引をしている人々(2008年)。中国商業モールの中の風景(2006年)。南アフリカにある清国領事館の初任領事及びその家族(1905年)。プレトリア大学博物館所蔵。
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