18Field+ 2010 07 no.4Field+ 見る 3街を見る、建物を見る、生活を見る 建築学で調査対象となる項目は多種多様である。建物そのものを調べることが基本といえるが、建物の集合体としての都市や集落の構成や、市場の仕組み、あるいは街路ネットワークなども調査対象となり、ミクロからマクロにまで及んでいる。また、建物そのものを調べるといっても多様な調べ方や見方がある。ざっと挙げるだけでも、下は立地条件や庭のあり方から、上は屋根や塔の形状まで、また内部では家具や建築材料、外部では壁や開口部まで及ぶ。建築学の広いジャンルの中で、私の関心は当初は地域や時代による建築デザインの違いにあったが、次第に建築と人との関係により注目するようになり、人々のライフスタイルにこだわったフィールド調査を進めていくようになった。 そういうわけで現在の私のフィールド調査は、都市の姿や都市の形成史を考察しながら、建築と人との関係、そこでのライフスタイルを読み解くことを目的としている。そこで、まず都市施設の配置、市場や住宅街の立地性、街路構成など、都市の建築上の全体像を把握するための悉しつかい皆的な調査や、情報収集といったマクロの調査作業から進める。次第にミクロへとシフトさせ、ハーラやマハッラと呼ばれる街区や、さらには個々の建物の調査へと進んでいく。具体的には、中東の都市や集落において、まず都市全体の姿を見ながら都市の構成要素や街路ネットワークを読み解いていく。都市の構成要素は、スークやバーザールと呼ばれる市場、大モスクやマドラサ(イスラーム高等教育機関)、市民の日常の生活空間となる住居などであり、またそれらを結びつける街路網のあり方を紐解くことも調査で重要な作業となる。ある都市内での建築的特徴の傾向や、他都市や集落との比較によって建築スタイルを浮かび上がらせ、歴史的に都市の姿を明らかにしようと試みている。マクロとミクロ、ハードとソフト 都市の全体的な姿や、都市形成のメカニズムを建築的な観点から探り、建築的な特徴を浮かび上がらせるために、調査や考察ではマクロとミクロの両面からの分析が必要になってくる。マクロ面からは、都市の構成要素の立地の仕方や街路網を見ながら都市を分解していき、小規模単位となる街区や町割にスケールを落とし込んでいく。またその街区は、住居や、日常の生活に密接に結びついた施設が集合することによって形成されているため、街区構成の仕組みを読み解くことは重要な作業である。たとえば、ハンマーム(公共浴場)、サビール(水汲み場)、パン焼き場、簡易礼拝所といった施設などが挙げられる。さらにミクロな面からの分析として、それら施設の建築的形態や細部のデザインなどの測量調査を進める。 建物を分析する際には、ハードとソフトの両面からの分析が必要になってくる。ハード面としては、住居や宗教施設などについて、建てられ方(木造や石造など)、中庭の形状や、泉・樹木などの中庭構成要素、各部歩いて見る、描いて見る建築史学者のフィールド調査新井勇治 あらい ゆうじ/愛知産業大学私が行う建築でのフィールド調査は、現地で建物や街並みをじっくり見ながら建物の実測調査を行い、またその建物を使う人たちからの聞き取りを行うことも重要視している。建物を見ながら、人々のライフスタイルも見つめているのである。ギョイヌックの全景険しい斜面地に互いの家が重ならないようにセットバックしながら、伝統的な形態を残した家が建ち並ぶ。建物の高さのための野帳チャルシュ(市場)に建つ店舗の高さや、店舗の規模などを測量して、野帳に情報を書き込み、チャルシュの立体図を作製する。その際には、いくつかのポイントを決め、そこからの距離や高さなどを計測している。立体図:街の中心部のチャルシュに建ち並ぶ店舗ギョイヌックの低い谷間には川が流れ、その川の袂のチャルシュ(市場)には、小店舗が建ち並ぶ。チャルシュには住まいの機能はなく、朝に店を開き、夜に店を閉じて、主人や店員は谷の上の家へと帰っていく。ギョイヌックは、イスタンブルとアンカラの中間地点に位置し、緑豊かな山岳の斜面に展開した小都市である。アンカライスタンブルギョイヌック黒 海地中海トルコ
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