15Field+ 2010 07 no.4(www.yukimarimo.com)。 ところで、お菓子を販売するに当たり「雪まりも」の商標登録が必要とのことで調べたところ、驚いたことに1996年の学会発表の翌日の新聞記事から4日後に2件の「雪まりも」の商標登録申請があり、その後の2ヶ月間でさらに5件が申請されており、「雪まりも」はすでに登録商標となっていることがわかった。そこで、初めに登録申請をして登録者となった方と相談して私がこの商標を譲り受け、現在では北見工業大学がこの商標を持つことになった。 皆さんもフィールドでいろいろなものを発見し、名前をつける機会があるかもしれないが、その場合に自分で名前をつけた名称の商標登録をいち早く取るということも考えたら良いかもしれない。2 皆既日食 1995年のドームふじ観測拠点での36次隊による初越冬観測では612.6m深(約3万年前に堆積した氷)まで掘削を進めたが、それを引き継いだ37次隊により、2503.52m深(約34万年前)までの掘削に成功した。しかしながら、深層掘削ドリル(長さ8.5m、直径135mm、先端に取り付けた刃が回転して、氷を切削する専用の装置)が掘削孔の途中で引っかかり、これ以上掘り進められなくなった。そこで、2001年に以前の掘削地点から約42m離れた地点で新たに掘削を開始した。 2003年、私は44次隊員として再びドームふじに行き、新たな深層掘削を実施するための新しい掘削場の建設と1年間の雪氷観測を実施することとなった。今度の44次での越冬隊員は、私を含めて8名。我々は2003年11月24日未明にドームふじで皆既日食が起こることは知っていたが誰も皆既日食を見た経験がなく、日本を出発する前には大きな話題にならなかった。 一方、この皆既日食の生中継を一つの目的として、NHKからディレクターやカメラマンが44次隊に参加していたが、彼らは食分率98%の昭和基地で越冬予定であった。昭和基地にはこれまで皆既日食を海外で2回見たことがある宮田敬博医師が参加しており、「ドームふじは皆既日食でいいですね」と南極に向かう観測船しらせの中で言われたが、「昭和基地も98%だから、ほとんど同じでしょう」と私は答えていた。 2003年11月23日、普段と変わることなく深層掘削場造成の最終作業を実施した。日食が起こる時刻までには、8名の隊員はドームふじ基地の好きなところに陣取り、日食が始まる瞬間を待った。日食開始時刻が過ぎてもすぐには太陽が欠けていることに私は気がつかなかった。医師の大日方一夫隊長が用意してくれた現像済みのX線フィルムを通してみると、太陽が少し欠け始めていることにようやく気がついた。それから約1時間後に、皆既日食の瞬間が来た。輝いていた太陽が徐々に小さくなり1点に集まったと思ったら、輝くコロナに縁取られた黒い太陽が天に浮かんでいた。1分43秒間の皆既日食では夢中で写真を撮った(図3)。一緒に越冬していた栗崎高士隊員は、ダイヤモンドリングの写真撮影に成功した(図4)。皆既日食を初めて見た正直な感想は、「ただ呆然」という感じであったが、天照大神が隠れて全てが闇に包まれたという、古事記の天の岩戸伝説をふと思い出した。 ドームふじでは1分毎の気象データを記録していたので、一緒に越冬している杉田興正隊員(気象庁観測部)にデータを見せてもらうと、この日食のために気温が約3℃程度低下していたことがわかった。2004年3月末に日本へ帰国後、日食中の氷床表面での熱や放射のやり取りの変化、日食の食分率と地上日射量との関係、これまでの日食での観測例との比較などをまとめて、観測結果を論文として出版した(Kameda et al., 2009)。 ドームふじで皆既日食を見た時に実感したことは、「皆既日食はオーロラや大彗星と同じく天空全体に広がる現象なので、本物を見なければその迫力は実感できない」ということであった。また、次回はぜひとも本物の皆既日食を家族にも見せたいと思った。 そこで、昨年7月、中国・トカラ皆既日食の際には家族3人で上海郊外まで行ったが、運良く再び皆既日食を見ることができた。時間にすると5分45秒程度の出来事だったが、自然が示す劇的な変化を再び堪能することができた。これからもいろいろな所でいろいろな物を「見て」、そしてそこから何かを学んでいきたいと考えている。図3 南極ドームふじでの皆既日食。手前中央は雪上車の上部、右側は観測用ブース。図4 ダイヤモンドリング(栗崎高士氏撮影)。 参考文献◦Kameda, T., K. Fujita, O. Sugita, N. Hirasawa, and S. Takahashi(2009): Total solar eclipse over Antarctica on 23 November 2003 and its eects on the atmosphere and snow near the ice sheet surface at Dome Fuji, Journal of Geophysical Research, 114, D18115, doi:10.1029/2009JD011886.◦Kameda, T., H. Yoshimi, N. Azuma and H. Motoyama(1999): Observation of “yukimarimo” on the snow surface of the inland plateau, Antarctic ice sheet. Journal of Glaciology, 45, 150, 394-396.◦亀田貴雄(2007):雪まりもの発見と再会,雪氷,69(3),403-407.
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