FIELD PLUS No.4
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14Field+ 2010 07 no.4見る 11 雪まりも 1995年、私は第36次日本南極地域観測隊(以下、36次隊と記載)の隊員として、南極氷床内陸に新たに建設されたドームふじ観測拠点(南緯79度19分01秒、東経39度42分12秒、標高3810m)で越冬観測を実施した。越冬隊員は私を含めて9名。我々の越冬観測の主な目的は、地球の過去の気候環境変動を復元するために氷床内部の氷を採取することであり、このための掘削場を建設し、実際の掘削作業を始めることであった。雪氷観測担当の私はそれに加えて、ドームふじの雪氷学的特徴(雪の積もり方や積雪温度、雪面での昇華凝結過程など)を調べることも目的としていた。 1995年7月29日の極夜の早朝、一緒にドームふじで越冬していた雪氷掘削担当の中山芳樹隊員が「マリモのようなおもしろいものが屋外にあるぞ」と他の隊員に声を掛けた。屋外に出ると、直径5mmから30mmくらいの霜の丸い固まりが雪面にできていた。雪面にできた針状の細い霜の結晶が風で移動して丸くなったようであった。ドームふじでの越冬観測中、この奇妙な霜の固まりは6回観察することができた(図1)。1996年3月末に私は日本に帰国したが、この霜の固まりを学会で報告しようと思った。そのためには、この霜の固まりに名前を付けなければならなかった。ドームふじでは、「霜しも玉だま」、「雪ゆき毛け玉だま」、「雪まりも」などと呼んでいたが名前が決まっていなかったからである。同じ研究室の高橋修平先生や一緒に越冬した東信彦隊員に相談すると、「雪まりもが良いのでは」とのことであった。こうして名前が決まり、1996年の日本雪氷学会で雪まりもの特徴と生成条件を報告し、論文も発表した(Kameda et al., 1999)。 その後、この「雪まりも」が火星表面に見られる球形粒子「ブルーベリー」とそっくりなことに興味を持っていた樋口敬二先生(名古屋大学名誉教授)から、「雪まりもという名前はお菓子にピッタリだ。作ってみては?」と言われ、「雪まりも」のお菓子を作ってくれる菓子店を探すことになった。最終的には、北見の老舗菓子店の㈱清月が作ってくれることになり、2007年3月からは北見市内の清月の各店舗と北見工業大学生協で「南極からの贈り物 雪まりも」として販売されるようになった(図2)。 これは幸いにも北見工業大学の学生さんの帰省時、先生方や事務の方々の出張時のおみやげに使っていただいている。これはインターネットでも購入可能なので、この文章を読んだ方にお奨めしたい(www.seigetsu.co.jp)。また、雪まりもに関するこれまでの情報は亀田(2007)にまとめたが、インターネットでも関連情報を発信している1995年と2003年に日本南極地域観測隊に参加し、南極氷床内陸のドームふじ基地(1995年の基地建設当時の名称はドームふじ観測拠点)でそれぞれ1年間の雪と氷のフィールド観測を実施した。ここではこれらの観測中に見たもので特に印象に残っている「雪まりも」と「皆既日食」を紹介し、そこから得られた経験を述べてみたい。南極の内陸で見たもの亀田貴雄 かめだ たかお / 北見工業大学図1 雪まりも(南極ドームふじにて撮影)。図2 南極からの贈り物「雪まりも」の販売用ポスター(㈱清月提供)。

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