FIELD PLUS No.3
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2Field+ 2010 01 no.3巻頭特集責任編集 飯塚正人赤堀雅幸菊地滋夫錦田愛子 中山紀子小牧幸代山岸智子澤井充生信田敏宏 ムスリムの生活世M イスラームとは、7世紀初めにアラビア半島の商人ムハンマドが聞いたという神のことば「クルアーン(コーラン)」を信じ、それに従うことを意味するアラビア語で、この教えに帰依する人々をムスリムという。ムスリムは今日、世界人口のおよそ2割を占め(約13~14億人)、その大半はアジア・アフリカに暮らしている。礼拝の義務や火葬禁止などの「神の命令」を守ろうとしたせいで、ムスリム社会には一定の共通する特徴が見られる。批判的視点に立てば、アジア・アフリカ各地にかつては存在したに違いない極めて多様な文化伝統のかなりの部分はイスラームの到来によって破壊されたと見ることもできるだろう。 とはいえ一方でイスラームは、それが伝播した諸地域の伝統文化や信仰体系とある程度混じり合うことで、各地のムスリム社会に特有の儀礼や慣習を生み出してきた。故大塚和夫教授は、地域毎のこうした特殊性が今日なお多くの民衆の生活の中で極めて大きな役割を果たしていることに早くから注目し、1980年代以降多くの共同研究を組織してこられた。生涯最後の共同研究となった「ムスリムの生活世界とその変容――フィールドの視点から」でも、かの現象学者フッサールが展開した「生活世界」概念を鍛え直し、フィールドの現実からムスリムの生活世界を不断に語り直す営為を肯定する理論上の根拠にしようと試みられる一方、ムスリムの生活世界一般に見られる共通性・普遍性と地域毎の特殊性の双方をよりいっそう明らかにすることを目指されていたのである。 本号では、2009年4月に志半ばで惜しまれながら急逝された故大塚和夫教授・前所長の遺徳を偲び、巻頭特集として大塚先生と最後の共同研究をともにされた方々に専門とされる地域のムスリムの生活世界を描き出して

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