FIELD PLUS No.3
36/36

34Field+ 2009 01 no.1Field+2010 01 no. 3フィールドプラス[発行]東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所〒183-8534  東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600 FAX 042-330-5610さわだ ひでおAA研定価500円(本体476円+税)フィールドワーカーの鞄澤田英夫 言語学の研究者である筆者が、AA研の「アジア書字コーパス拠点」(GICAS)の研究活動の一環として、ベトナム中部で最初に碑文撮影を行って8年になる。以来、東南アジア大陸部の各地で、石碑、寺院の壁や柱、鐘、仏像の台座、室内の額がく、個人所有の文もん書じよや位い牌はい、岩壁や洞窟くつなど、様々なものに記された文字を撮ってきた(写真5)。 使用するカメラはデジタル一眼レフ。撮影できた画像の量と質がそのまま調査の成果につながるので、写り具合をその場で確認できるデジタルは必須である。一眼レフの強みは、被写体に応じてレンズを選べること。正面から十分な距離を取れない被写体(写真2)の全体を撮るのに、超広角レンズは欠かせない。逆に、高さが人の身長を超える文字資料は、近くから全体を撮ると上の方にある文字ほど小さく写ってしまうので、離れた所から望遠レンズで撮るのがよい(写真3)。もちろん、大きな建物の壁の上部や天井など手の届かない所の文字を撮るのにも望遠は重宝する。標準レンズも含めて全てズームで揃えても、最低3本は必要だ。 意外に重要なのが、光を遮さえぎる装備。東南アジアの日差しは強く、碑文の一部に日光が当たるとそこだけ異常に明るくなる。被写体の明るさのムラをできる限りなくすために、窓にカーテンがあれば閉め、本来は被写体に光を当てるためのレフ板もここでは逆の目的で用いる。時には手持ちの傘まで総動員する(写真4)。 三脚が力を発揮するのは、手ブレを起こすおそれのある暗がりの撮影と、細部まで写し取るために資料を分割拡大して撮影するときだ。分割撮影で一番やってはならない「文字の撮りこぼし」を防ぐために行う構図の確認は、手持ちより三脚を使った方がずっと簡単なのだ。ただ、カメラの高感度性能が上がって暗がりでも速目のシャッター速度で撮れるようになり、画素数が1000万を超えて資料全体を1枚に収めても細部まで写し取れるケースが増えたことで、三脚の出番は以前に比べて減った。それでも、構図をきちんと定めるため、とりわけ資料の行が傾いて写るのを避けるため、時間が許し他の見学者の邪魔にもならない限り三脚を使うように心がけてはいる。 これらの撮影機材(写真1)に、画像整理を行うコンピュータやバックアップ用の外付ハードディスクまで含めるとかなりの重量になる。果たしていつまでこの装備を背負って現地調査を続けられることやら……。写真3 ベトナム東南部ファンラン市郊外の大岩に刻まれた、12世紀中頃の碑文の撮影風景。被写体の高さ約6m、被写体から約10m離れたあぜ道の向こうは水田で、これ以上近づくと脚が地中に沈む。重い望遠ズームを持って行ったかいがあった。写真5 カンボジア・アンコール遺跡、バクセイ=チャムクロン寺院入口の柱に刻まれた、10世紀中頃のクメール文字碑文。写真1 昨年11月のカンボジア調査で用いた撮影機材を再現したもの。総重量約12kg。写真2 ビルマの古都マンダレーの旧王宮碑文庫。碑文の列の間隔はご覧のとおり狭く、超広角レンズのなかったこの時の調査では、横からファインダーをのぞき込んだり、被写体の反対側の列の背面から列越しに撮影したりと、文字どおり悪戦苦闘の連続だった。写真4 ビルマ・バガン遺跡、ローカナンダー=パゴダ境内にある碑文(写真には写っていない)の撮影風景。傘の下に見える白い物体がレフ板。[発売]東京外国語大学出版会電話042-330-5559 FAX 042-330-5199

元のページ  ../index.html#36

このブックを見る