FIELD PLUS No.3
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31奇異に聴こえてしまい馴染みにくく感じられてしまう場合もある。例えば私自身は、幼少からピアノを弾いており、その後イラン音楽の世界に飛び込んだ。それは学生時代に出会ったイランのサントゥールという楽器がきっかけだったのだが、当初は楽器そのものの魅力(音色や弾き方)に取り憑かれていたこともあって、音楽それ自体に対しては、微分音のせいでうまく感情移入できない(よく判らない)、旋律のまとまりや終わった感じ̶̶「終止感」が感じ取れないということがしばしばあったのである。「判りにくさ」の背後に その後私は、友人たちや師匠のField+ 2010 01 no.331アドバイスに従って一旦楽器を離れ、「アーヴァーズ āvāz 」 と呼ばれる、人間のこえによる「語り」「うた」に積極的に耳を傾ける――全ての旋律を「ことば」「こえ」のニュアンスのなかで感じる――ことで、このハードルを徐々に克服していったのだが、思えばこの、何をもって感情移入ができるのか、旋律のまとまりや終止感を感じることができるのかは、歌われる「場」や歌詞の問題とは別の意味でそれ自体が非常に興味深い問題でもある。世間は西洋的な要素をもった音楽の一方的な流入現象だけでもってすぐ「音楽に国境はない ! 」などと簡単に言いたがるのだけれど。 だからこそ私はそんなすぐには判らない音楽にフィールドで出会ったとき、とても嬉しくなる。その音楽文化の担い手たちが何らかの価値(「美しさ」はその一例でしかない)を見出しているものに対し、私がそう感じないのは本当は大きな「ハンデ」なのかもしれないが、それはまた同時に、自分にとって未知な類の感覚や価値観を獲得してゆく新たなチャンスかもしれない――そのような期待感を抱きつつ、私は新しいフィールドへと参入してゆくのである。●おすすめCD タイトル:Vocal Radif of Persian Classical Music(5 CDs)発行元:MAHOOR INSTITUTE OF CULTURE AND ART (CD Number 125)発行日:2003年11月9日 アーティスト:Mahmud Karimi(Vocal)イラン音楽の神髄とも言われるアーヴァーズ——筆者の一番のおすすめはマハムード・キャリミーという歌い手の伝承によるラディーフ(伝統的旋律型集)。絶妙な間の取り方と感情表現、そして声の力によって、歌われる旋律の全てが必然性をもって聴こえてくる。このCDは以下のURLから購入できる。http://www.mahoor.com/cd/Pedagogical-Works/Vocal-Radif-of-Persian-Classical-Music-159.aspx日本の箏のように構え、両手にはめたピックで弦をはじいて弾く(撥弦)タイプの楽器カーヌーンの微分音用フレット。この楽器も中東各国に存在するが、写真のものはトルコ音楽用により細かい微分音が即座に出せるよう、ワンタッチ方式のフレットが装備されている。必要に応じてフレットを立てたり倒したりして調整する。筆者の研究テーマである「イラン音楽の即興演奏」を中心にその理論についてまとめた、日本語では殆ど初めてのイラン音楽についての本。一応専門書ですが、各章ごとに頭から読めば イラン音楽の予備知識がなくても読めるように書いています。 本書所収の楽譜の演奏例を含んだCD付き。(社)東洋音楽学会「第25回田邉尚雄賞」受賞。イランの伝統楽器サントゥール。真偽の程はともかく一説にはピアノの祖先とも言われ、台形のボディの上に箏状に張り巡らされた72本の弦を細いバチで直接打って演奏する「打弦」楽器である。

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