5コンクールの本番中も吹奏楽器以外はマスク着用が義務付けられる(新北市立丹鳳高級中学新聲丹鳳北管社団、新北市、2022年3月、撮影者:楊晨琦)。本番中も吹奏楽器以外はマスクを着用するなど、多くの規則に従いながら行われた。中元節(お盆)の行列(新北市、2022年8月、撮影者:呉佳緯)。て、ステイホーム中のファンを楽しませるためにネットで無料公開やライブ配信をし、ファンと密に繋がっていたのは興味深い現象だった。中元節(お盆)の儀礼(新北市、2022年8月、撮影者:呉佳緯)。葬儀の行列(淡水南北軒、新北市、2021年12月、撮影者:姚郁紋)。芸能が現場に戻る時 それでは、芸能の活動の場がインターネットに取って代わられるのかというと、そうとも言い難い。単なる趣味や娯楽だけではない台湾の芸能は、担い手と観衆を含めた集団が現場で行ってはじめて、信仰や文化継承といったその行為の目的を果たすからだ。空気を振動させて広がっていく音が空間を作り上げ、祝祭感を高め、連帯感を強める。 感染拡大第三期の現在、台湾政府はこれまでの「清零政策(ゼロコロナ)」から「重症清零、軽症管控(重症者はゼロ、軽症者は管理)」という、コロナと共に生きる方針に転換した。日常生活だけでなく、祭礼やコンクール、パフォーマンスの場も開かれてきた。マスク着用などの防疫対策を講じながら、「密」な民俗活動や芸能活動を取り戻しつつある。それは政府が示したルールにただ従うというよりも、一度止まってしまった芸能の空間を守り維持していこうとする、ひとりひとりの意思表示のようにもみえる。 芸能とソーシャルディスタンスと マスク着用 先に述べたように台湾では民俗風習が現代でも息づいていて、とりわけ民間信仰の儀礼と参加は、さまざまな意味で共同体の所属意識と結びついている。開■■■■■■路鼓(打楽器隊)や■■■■■■■■■■角隊(ラッパ隊)に参加し練り歩いたり、奉納劇の舞台を観ることで、神の存在や郷土を再認識する。しかし、感染拡大時はソーシャルディスタンスの規定を守るために儀礼は延期や中止せざるを得ない。ある大祭では、政府が出した規定だけで延■■とよば期や中止を判断するのではなく、筊れる占いで神に伺いを立てて神が答えを出すという従来からあるプロセスで、祭礼の延期を決めた。それは、感染症に対する恐怖と神に対する畏怖の間で揺れる民衆の気持ちに折り合いをつける(神様が中止というなら仕方がない、として面目を保つ)ための策ともいえるだろう。 2020年と2021年の3月に開催予定だった全国学生音楽コンクール(全國學生音樂比賽)では、まだワクチン接種が普及していない10代への感染防止策として、団体部門すべてのプログラムが中止となった。全国学生音楽コンクールは合唱や洋楽器以外にも、国楽(中国楽器によるオーケストラ)と、北管/南管/客家八音という少人数編成の伝統音楽合奏が含まれる。この時期は感染拡大によって「宅在家(ステイホーム)」政策がとられていたが、とくに感染拡大の第二期は学校の授業も体育や音楽を含め、リモートで行われた。一方で、集わないことには成立しない合奏音楽は完全に練習活動を休止せざるを得ず、また規制が緩和されて対面練習が可能になっても、笛や嗩■■■吶といった吹奏楽器を多用する伝統音楽は、マスク着用や1.5mの間隔をとるというソーシャルディスタンスの定義に悩まされた。2022年は3年ぶりにコンクールが開催されたが、芸能とステイホームとネット動画配信 インターネットのビデオ通話は合奏には向かないが、芸能と動画配信とステイホームはどうやら相性がいい。感染拡大第二期に2ヶ月にわたり一切の民俗活動や舞台活動を取りやめざるを得なかった頃、台湾の伝統劇の劇団や役者らは動画配信を用いて活動を続けていた。ある劇団は過去の作品をYouTubeで無料限定配信し、ファンと劇団関係者が鑑賞しながらチャットで盛り上がる光景もみられた。かくいう私自身もその配信を心待ちにし、日本にいながら一緒になって楽しんだ一人である。もちろん、コロナ以前から動画サイトやSNSには芸能に関する投稿が数多く並んでいたが、それらは関係者による公式な投稿よりも、ファンなどによる非公式な投稿のほうが多い。伝統芸能と肖像権や著作権といった版権問題について以前から議論されてきた台湾では、民俗活動の一環として屋外で無料上演される場合でも、撮影禁止あるいはウェブ公開の禁止を求められることも少なくない。作品を上演したり視聴覚メディアとして販売しその収益で活動する、すなわちプロの芸能家だからだ。コロナ状況下では一転し
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