台北市台北市新北市彰化県台湾4策と、それを受けて行われる芸能の一端を紹介したい。なお、多民族・多文化を擁する台湾だが、本稿では漢族系の民俗芸能を一例として取り上げる。マスクを着用して演じる(正新麗園歌劇団、彰化県、2021年12月、撮影者:姚郁紋)。「酬神演出防疫管理措施(奉納上演における防疫管理措置)」では、民間信仰の儀礼で演じる音楽や伝統劇などの出演者全員の健康管理チェックシート提出やマスク着用、ワクチン接種、PCR検査の実施義務などのほか、観客や現場の動線管理などについても細かに規定されている。ただ、厳格な安全管理を市民がまじめに共有しすぎた結果、夏場にマスクを着用して演舞するリスクや、マスクを着用せずに複数人で練習している姿を見た近隣住民が警察に通報するといった、社会問題に発展したケースも度々起きている。長嶺亮子 ながみね りょうこ / 沖縄県立芸術大学芸術文化研究所共同研究員、AA研共同研究員ゼロコロナからwithコロナへと方向転換した台湾では、人々で■れ返る祭りの賑わいも、また普通の光景になった。参拝する人、神輿を担ぐ人、銅鑼を鳴らす人、時には奉納劇の登場人物でさえもマスクを身につけているけれど。密になる台湾の民俗芸能 台湾がコロナ対策で成功をおさめたことは日本でも度々報道され、夜市を楽しむ台湾の人々の姿をテレビやSNSなどで見ては羨ましく思ったものだ。ただし、たしかに感染者/死亡者の数は他国と比べて圧倒的に少ないものの、2019年末のコロナの始まりから2022年現在において、台湾でも当然ながら感染拡大↗と減少↘の波を繰り返しており、その都度政策を改定しながら今日にいたる。台湾におけるコロナとのこの約3年間は、第一期[ʼ19.12末↗ ʼ20.3↘ʼ20.12中旬]、第二期[ʼ20.12下旬↗ʼ21.5↘ʼ21.12中旬]、第三期[ʼ21.12末↗ʼ22.5中旬→ʼ22.9現在]の3期に区切ることができる。 台湾は「密」な社会である。都市部の生活空間や人口が過密で狭いという意味ではなく、伝統的に親族や居住地域、あるいは出身地の風習、信仰などさまざまなものが要因となってコミュニティが形成されており、その密な社会の中で人々はさまざまなものを共有しながら集団活動を行っている。民俗芸能も同じだ。台湾の民俗芸能は単独ではなく複数人で行うものが多いが、それは芸能が、たとえば労働時の呼吸合わせであったり、地域全体で取り組む行事の一環であったりと、共同体での共通目的のために行われることも関係するだろう。また、台湾の民俗芸能は人が楽しむだけのものではなく、神への奉納や祈りといった信仰実践の手段でもある。加えて民俗芸能は、現代では「私たちの」郷土を理解するために取り組む学校教育活動のひとつでもある。人と人とが密になり、繋がり、民俗活動/民俗芸能活動を成り立たせてきた。だから、このコロナ状況下に世界規模で広がった「ソーシャルディスタンス(中国語で「社交距離」)」という合言葉は、台湾の人々に戸惑いをもたらした。本稿では、コロナ状況下で政府が発令した芸能文化に関わる政迅速で厳格(すぎる)管理 台湾政府のコロナ対策の成果は、初動からの迅速さ、医療やITの専門家を官僚に配した高い専門性、海外からの入国全面禁止やマスク在庫管理アプリの開発と活用、罰金制度など徹底した管理体制が功を奏したものといってまちがいないだろう。こういった厳格な管理は民俗芸能にも及んでおり、たとえば文化部が2021年に公示したコロナ状況下の台湾の芸能と防疫コロナ状況下の台湾の芸能と防疫「密」を取り戻すために「密」を取り戻すために
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