パンデミックという未曽有の事態に戸惑いながらも、周囲の環境や人員をやりくりしなんとか芸能を紡ごうとする人々。彼らの実践や語りを、記録しておきたいと思うようになった。日常のあらゆる場面でウイルスを意識し対応を求められるこの「コロナ状況」は、我々の芸能をどのように変えてゆくのか。たとえば「密」の回避や移動の制限は、上演者の身体や観客との関係、表現内容や伝承方法にどう影響するのか。何が中止の対象となり、何はならないのか。音楽や舞踊を「不要不急」とみなす風潮のなか、芸能の実践者たちは何を思いどのように応答するのか。そして、この非常事態下の芸能の動態を検討することで、芸能に対する我々の理解をどのように更新してゆけるのだろうか。「コロナ禍」ではなく「コロナ状況」という語を撮影者:姚郁紋特集タイトルに選んだのは、必ずしも災いではない側面にも目を向けながら、これらの問いを探求したいからである。 本特集は、現在進行中の共同研究の成果の一部である。このプロジェクトでは、いわゆる「伝統的」な芸能も、より現代的なジャンルも扱う。儀礼、劇場、学校、そしてYouTubeなどWeb上の各種プラットフォームも調査対象となる。それらを横断的にながめることで、それぞれのジャンルや現場に特有の困難やそれに対する人びとの工夫や葛藤の様子も浮かび上がってくる。なお制約も多い状況下、試行錯誤しながら調査するフィールド・ワーカーの奮闘ぶりも感じていただけるのではと思う。撮影者:小塩さとみ撮影者:神野知恵FIELDPLUS 2023 01 no.29FIELDPLUS 2023 01 no.29本特集は、AA研共同利用・共同研究課題「新型コロナ感染拡大下における芸能に関する学際的研究」および科研費(基盤B)21H00643の研究成果の一部です。333
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