身体の延長にある衣服 私はAA研の広報を担当しており、芸術大学出身という、他のAA研の皆さんとは少し異なったバックグラウンドを持っている。今も自分の制作する際の考えの基礎となっているきっかけが大学の卒業制作にあったと思うので、今回は卒業制作の過程を少しお話しさせていただきたいと思う。 大学ではファッションデザインを専攻として制作していた。ファッションデザインというと、服のブランドや日常的に着る服などを思い浮かべるかもしれないが、私は大学に在学している頃から、ブランドの服よりも民族衣装や舞台衣装に心が惹かれることが多かった。それは恐らく日常から離れた非現実的な世界を楽しむ感覚と、特に民族衣装には一人の人間が考えただけではない、連綿と続いてきた太古の智恵のようなものを感じることができるからである。 自分にとって衣服とはただ外側から異物を重ねるものというだけではなく、自分の身体の延長という感覚や、皮膚を拡大しているようなイメージがあると思う。 思いもよらなかった小さき生き物との邂逅 4回生になった時に私は陶芸の先生が担当しているゼミに入ることにした。それまでほとんど布ばかりを扱っていたが、違う素材に触れて新しい発見をしてみたくなったのである。そこで私は思いもよらず卒業制作に繋がるカビとの出会いを経験した。 ガラスの素材を使った授業で私は「ご飯を残さないための茶碗」という作品を作った。ご飯茶碗の中にご飯粒があるようなディティールを作り、ご飯粒が残っているところを容易に想像できるようにすることによって盛りすぎを防ぐ、というコ自分の内側にあるものを表現するというよりも、自分と他者との間の関係性のなかから生まれる何かをつかみたいと思っている。米粒をコツコツと茶碗に載せていく。*写真はすべて筆者撮影。26ンセプトの茶碗だ。お米に感謝しながら、茶碗にご飯粒を一粒ずつ丁寧にピンセットで貼り付けていき、石膏で型をとり、型にガラスの破片を敷き詰めて窯で熱して石膏の型の通りに溶かすという工程だった。ご飯粒を使って石膏の型を取ったおかげで、一週間後に開けるとそこにはナウシカのような腐海の森が広がっていた。思いもよらないカビの増殖に私はあまりにも衝撃を受け、同時に、人間以外の生物が、生存するための過程で人の目に見える形で模様を作っていることが面白いと思った。共同作業でできあがった作品 それから身近にあったカビに興味を持ち始め、どれくらいカビを増やすことができるのか実験を始めた。シャーレの中ででん粉と糖分を含めた寒天を培地にして、すでに生えたカビを載せてみたり、大学の建物が面している山に行って、でん粉と糖分を溶かした水分を布に吹きかけて袋に入れたものを土に埋めてみたりなどの実験を行った。カビが増えるための材料さえあれば布の上でも増殖させることが可能ということがわかったところで、どう作品に落とし込むか悩んでいると、ゼミ生のみんなに前掛けを着せてお好み焼きを食べてもらい、その際に前掛けに飛んだ食べこぼしを利用してカビを生やすのはどうか、と先生からアドバイスをいただいた。意図的に自分でカビの培地を作るよりも、自然の動作の中で生まれた模様の方が面白いしカビにとっても良いだろうと思った。(ゼミ生のみんなに前掛けを汚してもらうためいつも以上に大胆に食べてもらうようにお願いすることにはなったが)お好み焼きを食べた後の前掛けを学校の裏山に干してカビの胞子を十分に付着させ、霧吹きで湿らせた後、袋に入れて段ボールカ ビ本田直美 ほんだ なおみ / AA研研究機関研究員関係性のなかに介在するもの
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