フィールドプラス no.29
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JR常磐線龍 ケ 崎 市式秀部屋の外観。1階が稽古場、2階が力士の生活スペース、3階が親方の部屋となっている。牛久沼JR龍ケ崎市駅■城県*写真はすべて筆者撮影。日本相撲協会、被撮影者の同意を得て撮影・掲載しています。18稽古の様子。伝統的な大相撲の「内側」の世界に対して、どこか敷居の高さを感じていたからだ。そんな中、ある相撲部屋が、ネット上でちょっとした話題になっているのを見つけた。その相撲部屋は、稽古の様子をニコニコ生放送でライブ配信していたり、SNSを積極的に活用して、新弟子を募集したりしていた。そうした取り組みは、これまで筆者が抱いていた相撲部屋の古典的なイメージとは違い、非常に現代的で意外性があった。「ここなら調査ができるかもしれない」と考えた筆者は、早速、部屋に連絡を取り、朝稽古の見学に向かった。 筆者が訪れたのは、「式■■秀■■部屋」という■城県龍ケ崎市にある相撲部屋であった。午前8時、JR常磐線の佐貫駅(現在は龍ケ崎市駅に改称)で降りて住宅街を歩いていくと、「式秀部屋」という表札が掛かった3階建の白い大きな建物が見えた。建物の前まで近づいていくと、ほのかに鬢■■付■け油(力士の髷■■を結うために使うすき油)の甘い香りが漂ってきた。筆者は少し緊張しながら、部屋の正面玄関を開けた。こんにちは、と挨拶をすると、10代くらいの細身の少年が出てきて、「どうぞ上がってください」と言った。中に入ると、既に15人ほどの力士たちが土俵で稽古を始めており、手前の上がり座敷には、この部屋の長である式秀親方(元・北桜)が、稽古の様子をじっと見つめていた。稽古場は、力士たちの熱気と、汗と土と油の混じった独特な匂いと、殺気の漂う張り詰めた空気に支配されていた。相撲部屋との最初の出会いは、思わず背筋が伸びるような強烈な体験だった。名古屋場所の宿舎で稽古を見守る式秀親方。相撲部屋は、力士たちが共同生活を営む「家」である。師匠と弟子であり、父と子でもある親方と力士の独特な関係。この特殊な生活様式の一端を、筆者のフィールドから紹介する。松山 啓 まつやま けい / AA研ジュニア・フェロー相撲部屋との出会い 2016年6月、当時大学院に進学したばかりだった筆者は、国内で大相撲の人類学的な研究をしたいと考えて、フィールド調査が可能な相撲部屋を探していた。それまで、大相撲の本場所や巡業には何度も足を運んでいたが、相撲部屋には一度も訪れたことがなかった。なぜなら「部屋」という場所は、とてもプライベートな空間を連想させるし、相撲部屋の歴史 ここから筆者は、式秀部屋でのフィールドワークを始めたのだが、その前に、そもそも相撲部屋とはどのような場所なのかを簡単に説明したい。現代における相撲部屋とは、日本相撲協会が力士の養成を委託する組織のことをいう。部屋を運営するのは、年寄名跡を保有する年寄(親方/師匠)家相撲部屋の生活と環境

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