フィールドプラス no.29
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* 写真はすべて 京都府亀岡市南丹市岡山県岡山市玉野市笠岡市備前市瀬戸内市倉敷市浅口郡兵庫県丹波篠山市加東市香川県丸亀市(塩飽諸島)坂出市(塩飽諸島)小豆郡(小豆島)香川郡(直島)越前市鯖江市長浜市近江八幡市東近江市愛知郡守山市蒲生郡野洲市湖南市大津市草津市三方郡三方上中郡10いつもは台所にあがってお祓いする家だが、玄関先での対応を依頼された(2021年1月、滋賀県某所)。筆者撮影。図 筆者のこれまでの同行調査地域らに一生懸命ついて■り、写真や映像を撮り、神楽を迎える人々から話を聞き取ることだ。ときに熱中症や筋肉痛になりながらも、一緒に歩いている。「何千回と見ていて飽きないのか」と聞かれることもある。私が見ているのは芸能そのものだけではなく、家ごとに異なる反応や、神棚の祀り方、玄関や庭の趣向、道行く個性的な人物との対話なども含む。そのため、調査のたびに新たな出会いやハプニングが起こり、飽きることはない。 なかには神楽師たちをお茶やお酒でもてなす家もあり、私も上がって一緒にご馳走になることがある。季節や地域ごとに特色のある品々のお相伴にあずかり、これを記録することも重要な調査の一部である。カメラを構えていると、よく報道関係と勘違いされる。少しデリケートに見える家庭では、カメラを降ろして、門の外からそっと眺めることにしている。ときに私を神楽師の一員か家族だと思い、家を■る順番などを聞いてくる人もいる。そのたびに、研究者として同行しているのだと慌てて説明する。堂々としていれば良さそうなものだが、回檀に第三者がついて■ること自体、不自然なことであるという自覚があるので、毎回言い訳をするような気分になる。神社やホールなどでカメラを三脚に据えて演舞を観察する芸能調査と比べ、異なるタイプの体力と気力が必要とされる現場だということがおわかり頂けるだろう。 現役神楽師は全員が男性であり、一つの社中は20〜70代の神楽師6〜10名ほどで構成される。初めて調査に行った時は、ひとりで男性陣の間に飛び込んだため、どうふるまってよいかわからず緊張したが、今では有難いことに非常に心安く接して頂いている。村々を■った後、同じ旅館に泊まって、晩に一献を交わしながら各地での思い出話を伺うことも大事な時間になっている。福井県滋賀県大阪府松原市堺市大阪狭山市羽曳野市藤井寺市岸和田市泉南市阪南市三重県桑名市伊勢市(伊勢神宮)神野知恵 かみの ちえ国立民族学博物館人文知コミュニケーター・特任助教、AA研共同研究員私は2016年から伊■勢■大■■神■■■楽のフィールドワークを行っている。今年で6年目になるが、そのうち3年間がコロナ状況下となった。このエッセイでは、伊勢大神楽の調査や映像民族誌制作の面白さと、パンデミック期間中に取材を行う難しさについて紹介する。旅する宗教芸能者、伊勢大神楽 伊勢大神楽とは、今でも家々を訪ね歩いて獅子舞を奉納することをなりわいとする人々のことである。国の重要無形民俗文化財の保持団体に指定された伊勢大神楽講社には、五つの社中がある。それぞれの社中に属する神楽師たちは、三重県桑名市を拠点とし、一年を通じて西日本各地を■る「回■■檀■■」の生活を送っている。社中ごとに先祖代々「檀■■那■場■」と呼ばれる地域を担っており、それらの地域の家々を毎年決まった時期に訪ねている。今日も、どこかの玄関先で獅子舞を舞っているのである。私は彼らのことを、旅する宗教芸能者の姿を現代に伝える貴重な存在だと考え、2016年より回檀への同行調査を行っている。同行調査の面白さ 伊勢大神楽の神楽師たちは毎朝7時頃、宿泊する旅館を出て地域を■り始める。夕方まで100軒近くの家々を訪ね、一軒一軒でお祓いを行い、庭先や座敷で獅子舞を舞う。多い日は300軒近くを、二手、三手にわかれて■る。真夏の■熱地獄であろうが、真冬で路面凍結していようが、回檀は行われる。私の仕事は、彼コロナ状況下での変化 そのように調査を行ってきたが、2020年初頭にコロナ状況下に突入した。日本各地の祭礼行事が中止になるなか、伊勢大神楽は休まず回檀を続けた。これは、きわめて特殊なことである。地域の人が地元で演じる郷土芸能と比べ、専業集団が各地を訪ねて演じる伊勢大神楽は、特性が大きく異なるということが浮き彫りになった。神楽師たちは、回檀をなりわいとしているため、コロナ状況下であっても中止するという選択肢を選ばなかった。または「選べなかった」のだろう。 迎える側はというと、コロナを理由に、回檀の全面中止を要請してきたのは、全社中を見ても二つの地区のみだった。ただし、個人レベルでは断る家も無論あった。「感染防止のため」と貼り紙を出す人もいれば、「事情により」とぼやかす人もいた。実際は感染への恐怖からくるものか、罹患者がいるからか、はたまた神事への関心の薄れによるものかはわからない。しかし、コロナが何らかのきっかけになったことは確かであろう。コロナ状況下の日本でコロナ状況下の日本で伊勢大神楽を撮る伊勢大神楽を撮る

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