本特集は、2019-2021年度AA研共同利用・共同研究課題「ジャワ語及び東南アジア諸語テキストにみる宗教変容―イスラーム化過程における国家の戦略と役割」(代表:菅原由美)の研究成果の一部である。3*写真は、右下は新井和広撮影、他は筆者撮影。サムドゥラ・パサイ王国初代国王マリク・サレの墓。写本写真。写本調査写真。くの言語が存在し、イスラーム化が進むと、その中からムラユ語同様、アラビア文字で表記される言語が現れた。アチェ語、ガヨ語、ミナンカバウ語、スンダ語、ジャワ語、ブギス・マカッサル語、ゴロンタロ語、テルナテ語、ウォリオ語、タウスグ語、マラナオ語、イラヌン語、マギンダナオ語、チャム語などがあり、アラビア文字表記のジャワ語はペゴン、ブギス・マカッサル語はセランと呼ばれた。また、ベトナム中南部のチャム語の場合はムラユ世界とは断絶されて発展したため、ピニ文字と呼ばれる特殊なアラビア語の文字表記が発展した。 そうした様々な言語で綴られた写本は、植民地時代に蒐集され図書館に保管されているだけではなく、今も東南アジア各地の現地社会に保管されている。これらは、西欧語史料からでは知ることができない、イスラーム化の歴史を私たちに問いかける貴重な史料である。アジアのイスラーム化
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