東京外国語大学出版会東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所i 電話042-330-5559 FAX042-330-5199〒183-8534東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600 FAX042-330-5610. 202207no28FeldPLUS : 定価本体455円+税[発売][発行]フィールドプラス■■■ad S■■■uan K■■れなりに遊び甲斐がありそうなのに、ほかの利用客の姿がない。 「すいてるね。貸切状態で遊べるなっ!」 気分を盛り上げようと声をかけてみたものの、つないだ手にぎゅっと力を入れ、不安気にこちらを見上げる我が子。前日の調査では占い師の儀礼に涼しい顔で立ち会い、ここへ来る道中も言葉の通じないはずのドライバーと■の会話を交わしていた子が一体どうしたというのか。しかし理由は察することができる。Kad Suan Kaew には何度も足を運んでいるわたしも、それまでこのエリアの存在にすら気がついていなかった。それほど目立たない、ほかの店舗から離れた場所にその遊戯エリアはあり、なぜか照明まで薄暗くなっている。なかには日本では使われないような古びた遊具も並んでおり、その場になんとなく漂うのは、ゴーストタウン風の不気味さ……。 とはいえ、一度遊び始めてしまえば最初の不安もどこ吹く風。それまで体験させたことのなかった有料の遊具の魔力には勝てない。すぐに夢中になり、やがてやってきた地元の子どもとも一緒に遊び始めた。調査期間中、空き時間をつくって別の日にも再来したほど、そこは我が子のお気に入りスポットとなった。帰国後も、その場所のことを思い出しては「また行きたい」と言っている。日本にある類似の施設とは違うなんともいえない雰囲気に、この子は魅了されてしまったのだ。 COVID-19のパンデミックの影響で、こういった屋内施設は現在閉鎖されている。本人の願い通りに、また連れて行けるのはいつになるだろう。再び子連れでフィールドワークができるようになったとき、施設は再開されているだろうか。そしてその時、この子はまだ小さな遊戯施設で怖がったり、夢中になったりできるだろうか。 デパートの端、空きスペースのさらに奥に子ども用の電動遊具コーナーがある(画面右奥)。なぜか照明が点いていないので、行こうと思わなければ気がつかずに手前で引き返してしまう。ボールプールやエアートランポリンのある大型遊具のコーナー。本来時間制だが、この時は利用客が他にいなかったため退場をうながされることなく、実質遊び放題になっていた。*写真はすべて筆者撮影。 それまではひとりで行っていたフィールドワークに、子どもを連れていくようになったことで、想定外の動きが増えた。小さい子どもがいれば休憩の回数も頻繁になるし、子ども目線の立ち寄りどころも増えていく。そういった子ども主体の動きが、わたしにとっての「よりみち」だ。 数年前、タイ王国北部のチェンマイに当時4歳の子を同伴していたときのこと。調査中、街を歩いていると「公園ないの?」と度々公園に行きたいとせがまれた。日本にいるときには毎日幼稚園の園庭で駆け回っていた年中児には、異国の刺激がいっぱいとはいえ、身体を動かして遊ぶアクティビティが足りなかったらしい。 しかし、チェンマイに公園は、ない。少おがわ えみこ / 日本学術振興会特別研究員RPD(AA研)専用の広場ではなく、遊具の間を走るしかないコイン式電動車。なくともこの子が想像するような、子ども用の遊具が充実した公園というものはない。こちらで公園といえば、早朝や夕方に太極拳やエアロビ、ランニングをする人はあっても、日中に子どもが遊び回る場所ではない。そんなことをしたらたちまち熱中症かデング熱にやられてしまう。 そのかわりに連れて行ったのが、屋内遊戯施設。チェンマイに複数あるショッピングセンターにはそれぞれ、幼児の遊べる施設がある。新しいショッピングモールにはそれだけ新しい遊具があるが、わたしが連れて行ったのは、最もローカル色が強いデパート“Kaew”。チェーン店だけではなく、小さな店舗のテナントが多く入ったエリアもあり、地元市場のような庶民的な雰囲気のショッピングセンターだ。 そこの2階の端の方に、お目当ての遊戯エリアがあった。コイン式遊具が並んだスペースと、時間制で料金を支払うと大型の遊具で遊べるコーナーにわかれており、そフィールドワーカーの小川絵美子不気味楽しいローカルデパートの遊戯施設
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