フィールドプラス no.28
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ア バ阿坝ギャロンの地域と植物 オードリクールと L. エダンの共著『文明を支えた植物』によれば、民族植物学を研究するためには2つの言語資料―書写資料、書写伝統のない言語の口語資料―が必要だという。巨大なシナ・チベット語族の中で、書写の伝統を持つ言語は多くなく、また多くの古語には書写資料がない。これらの言語において植物に関する言語資料を入手するためには、言語調査に頼らなければならない。  四川省北西部の阿■■坝チベット族チャン族自治州と甘■■■孜チベット族自治州は、今日の中国における言語、民族、多様性のオレンジの丸(●)がギャロン語の分布域(地図作成協力:頼雲帆)。ホットスポットの1つだ。この非常に神秘的なエリアは「嘉■■■■戎(rgyalrong)」と呼ばれている。その名はチベット語に由来し、「女王の暖かい谷」を意味する。 ギャロン語群は、シナ・チベット語族の最も古い分枝の1つであるものの、上述のように書写の伝統がほとんどない。したがって、その語群の言語を調査・記録することには大きな意義がある。 危険な地理的環境が、しばしばその地域を■めいたものにする。ギャロンはチベット高原南東の麓にある横断山脈に位置し、高山の深い谷と急流の川に囲まれている。そのため、1990年代までこの地域へのアクセスは難しく、都市化が遅れた。この特別な地理的環境は、この地域に豊かな植生と種の多様性をもたらした。最近まで、ギャロンでの主な生活様式は自給農業と畜産業だった。このような生存環境下で、植物は、人々の生産と生活のあらゆる側面(医学、農業など)において重要な役割を果たしており、ギャロンの地域を理解するための重要な手段であると言える。 2019年から、私はギャロン語群の言語学者や雲南中医薬大学の植物学者による共同研究に参加している。共時的(ある同時代の)かつ通時的な(歴史的に見た)言語研究を媒体として、ギャロン地域で民族植物学の研究を行いたいと考えている。共時的には、ギャロン語の植物語彙を収集し、それらの形態解析を行う。それに基づいて、原始語に再構できる古代の植物の語彙を見つけ、固有の植物名と借用語植物名を識別する。この地域のいくつかの植物の古代の性質を言語学的証拠によって明らかにし、原始的なギャロン地域の民族植物文化を解明することを目的としている。 オードリクールスタイルの民族植物学調査 省都・成都とを結ぶ道路交通が便利になるにつれて、ギャロン地域の都市化は不可逆になった。山に隠れた小さな町に外来の物が■れ始め、周辺の村々に浸透していき、何世代にもわたる農業、織物、畜産のライフスタイルの範囲が徐々に狭まっていった。伝統的な植物の知識、特に野生植物に関する知識は、高齢世代が世を去るにつれてギャロンの人々の生活から徐々に姿を消しており、民族植物学の研究が急務となっている。私たちは植物学者のような現地調査を行うことにした。 典型的なギャロンの村は、川の近くにある村と山の真ん中にある村の2つに分けられ、これらの地域に分布する植物も異なっている。私たちの調査は、白■■■■湾郷の加■■■达村で始まった。私は、25バイワン白湾カン ゼ甘孜青海成都雲南寧夏 甘粛四川中華人民共和国四川省

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