フィールドプラス no.28
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建築中のAA研(現在の建物)。※提供:東京外国語大学文書館1993年4月7日、「AA研アジア・タイガース対アフリカ・ライオンズ対抗試合」(下写真中央が峰岸さん)。していることにならないかっていうことについて。色々考えましたね。22峰岸 タイにいる時、ティラパン先生という方が指導についてくださった。この先生はタイ国内外のいろんな言語の調査をよくなさってる方でした。その先生の授業の中で、合宿の形で、学生をフィールドに連れて行くゼミへ参加したこともあります。私がフィールドらしいものに触れたという意味では、現地に実際に行ったのはそれが最初と言えば最初ですね。行った先は、タイの西の方の『戦場にかける橋』で有名なカンチャナブリ県の県庁所在地から北の方に100キロくらい入っていった、ジャングルの中ですけども、そこでまあ一週間。 覚えていることは、東南アジアの河ってよく茶色い土で濁った水で、生物化学的には非常に栄養豊かで魚も多いという環境ですけど、ちょっと飲む気にはなれないような水。けど山の中に行った時には、河は清流が流れていて、夜は蛍が飛んでいるんですよ。素晴らしいなと。ただ行くときにランドクルーザーに12人くらい乗ってたのかな? 地元の人が運転してくれて、「このジャングルには虎がいるんだよ」とか言いながら入っていって、行った先で、「もうちょっと、あと2キロ」とか言いながら川底に乗り上げて、車が動かなくって、そこからみんなで村まで歩いた。「さっき虎がいるって言ってたよね」って言ったら、「シーッ」と(笑)。「言うと出るから」っていうのがどこにでもある(迷信です)。みんな都会育ちのバンコクの人たちで、山の中行ったことありません。レンジャーのいる小屋みたいなところ入っていって、女性は建物の中、我々男の学生は軒下。寒いんですよ、これが。私は3シーズン用の寝袋持ってたんですけれども、何しろ寒い。こんなに寒いと思わなかったってくらい寒い。結構標高は高かったんだと思う。まもなく米以外の食べ物もなくなって……、それでも、修士課程の学生ですから、みんな修士論文書くにはそこで調査しないと単位もらえないから行くわけですけど。 彼らと友達になって「君は何しにタイにきたの?」「少数民族の調査がしたいと思ったんだよ」「日本にはいないの?」「いるにはいるんだけど」って話をしたことがあります。ただ外国まで来てそういったことをやるってことがちょっと考えさせられるものはありましたね。自分が外国に来てまでフィールドワークをやって、現地の人にとって何か意味があるのか、結果的に搾取懐かしのAA研、言語研修荒川 AA研にご就職された当初は?峰岸 入った時の所長が梅田博之先生です。私が所員として入った時に、どんな研究してもいいから自由にやってくれっていうのが、先生の当時の第一声でした。荒川 野球の試合をしている写真が所長室から出てきたんですけど、これは何をやっていたんですか?峰岸 何かの時に、梶(茂樹)さん【アフリカ諸語】か、宮崎(恒二)さん【東南アジア島嶼部・人類学】とか水島(司)さん【アジア経済史学】とか、あの辺のスポーツの好きな人が、野球でもやらんかって言って、やったんですよね。アジア・タイガース対アフリカ・ライオンズでやろうってことになって、それでグラウンドで野球やって。二回目の時だったかな、明治大学かどこかの大学院生相手にやって勝ったんですよ、確か。それで水島さんがピッチャーやって、宮崎さんがショートかな。うまいんだよね。水島さんがすごいピッチャーなんだよ。口でああだこうだ悪口並べ立てながら投げるんだけど、話がおかしくてバットがちゃんと振れないわけ。「あんなオヤジに負けて悔しい」って学生が言ってるし、飯塚(正人)さん【イスラーム学】が「口で投げる人初めて見た」って(笑)。水島さんってそういう人じゃない。口八丁で。あの口で投げちゃうわけ、おかしくて打てないわけ。すごい試合だったよね(笑)。倉部 タイ語などの言語研修のお話も少しお伺いできますか?峰岸 1996年に、今度タイ語研修をやりなさいと。せっかくだからタイ語の研修方法の開発をしようって。Macのコンピュータって当時ハイパーカード(HyperCard)っていう、音声と文字と絵を同時に使えるソフトウェアが無料でついてましたから、それで文字学習のシステムを作りました。ボタンをクリックすると、正しければその発音が出るし、間違っていたらブーという、というシステムを。 実際タイ語研修でよく問題になっているのは、カンボジア語も同じようなものですけれども、文字と発音にかなりズレがあって、タイ語の場合は文字を覚えるとともに、文字と声調記号の組み合わせで声調が変わっちゃうので、それも覚えなきゃいけない。だからタイ人がタイ文字を順番に教えるとすごく時間がかかる。日本語で言うと例えば、ひらがなの「わ」と「れ」と「ね」と「ぬ」……、文字のどこが共通点で、どこが丸まってるとか外に跳ねているというように違ってるか、文字の、これとこれはこのように違うんだという風に教えるシステムを作って、この順にやる。するとすごく早く覚えられます。これは僕が考案したものじゃなくて、最初に坂本先生がカンボジア語の文字を教えるときに紙の上でこういう教え方をやってたんですよ。ノートの上の一行目に字が書いてあって、二行目に発音記号が書いてあるので、下の行を定規で隠しながら、一行目の発音を選ぶ。正しかったら次の行に進むっていうやつをやって、一ページ終わったらそのページに出てた文字は覚えられる。例えばカンボジア語の ក /ka/、គ /ko/、ត /ta/、ភ /po/っていう四つの文字があって、その字の形がよく似ている部分と違っている部分があるっていう。えらいみんな早く覚えて、当時の研修の報告書を見てもらったら

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