フィールドプラス no.28
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朝6時頃のボルネオ熱帯雨林は鳥やテナガザルの鳴き声で想像以上に騒がしい。オランウータンは東南アジアに棲む、人間に近縁なヒト科類人猿である。アフリカに生息するチンパンジーやゴリラと異なり、明確な群れをつくらず、特にオスは「ひとり」で生活する時間が長い。オランウータンの孤独な暮らしを観察することでわかることは何か。クアラルンプールスマトラ島ボルネオ島調査地*写真はすべて筆者および関係者撮影。18日本学術振興会海外特別研究員(ワシントン州立大学)すり寝ているであろうオランウータンの姿を想像して、「研究者じゃなくてオランウータンに生まれた方がよかった」といつも思う。朝食を済ませて着替え、調査アシスタントと一緒に出発する。若いオスのカイ、朝なかなか起きてこない。オスは成熟すると顔の両サイドが大きく変形し、フランジオスと呼ばれる形態になる。うっそうと茂る熱帯林の中に入るとヘッドランプ無しには歩けないほど暗い。小川を渡り、藪を漕ぎ、GPSレシーバー上に表示されるピンへ向かう。ピンが指し示すのは前日の夕方にオランウータンが寝床を設けた木である。そこで寝ている野生オランウータンのカイは、母親から既に独立して離れて生活する若いオスである。 5:45、カイの寝床の木の下に到着。カイの姿は樹上の寝床の中にすっぽり収まっていて、よく見えないがまだお休み中のようだ。キャンプ用の折りたたみ椅子を広げて座り、ひたすらカイが起きるのを待つ。 8:30、太陽が高くなり始めてもなかなかカイが寝床から出てこないので、夜のうちにどこか別の場所へ移ったのではないかと不安を感じ始める。するとカイがぐいっと頭をもたげ、寝床から起き上がる様子が見えた。やっと活動開始である。アシスタントたちも伸びをしながら、追跡する準備を整える。しかし、すぐにカイは再び寝床に横たわり、動かなくなってしまった。私たちは眠い目をこすりながらひたすら待ち続けるしかない。マレーシアサバ州田島知之 たじま ともゆき / 京都大学学際融合教育研究推進センター宇宙総合学研究ユニット特定助教、 マイペースな森の人 オランウータン研究者の朝は早い。日の出前の朝4時、暗闇で鳴り響く目覚まし時計を手探りで止めながら、その頃にまだ樹上のベッドでぐっひとり「ひとり」はどうしてさみしいのだろうか

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