フィールドプラス no.27
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4ミクロネシアポリネシアメラネシアオーストラリアニュージーランドサイパン島グアム島マーシャル諸島ポーンペイ島*写真はすべてポーンペイ島にて筆者撮影。儀礼的な機会に使用される祭宴堂の光景。首長などの高位者は祭宴堂の奥間に着座し、軽食などの給仕を受ける。(2011年8月6日)葬式の会場に一頭のブタを持参する島民の写真。称号保持者は儀礼的な機会に自らの財を供出することで、首長に貢献する義務を果たす。(2009年6月23日)河野正治 かわの まさはる / 東京都立大学、AA研共同研究員「首長に負う社会」として知られるミクロネシア連邦のポーンペイ島。島民は首長に何をどのように負うのか。その負い方にいかなる特徴があるのか。負債/負目という切り口から社会のしくみに迫りたい。負目と忠誠 負債/負目に関する文化人類学の研究は、債権と債務をめぐる経済的関係にとどまらず、かならずしも経済的とはいえない「負うこと」の多様なありようを掬■■いあげてきた。金銭を介さない人間関係上の借りや貸し、立てられるべき義理、報いるべき恩といったものである。 文化人類学者は、こうした広義の「負うこと」を視野にいれることで、社会によって異なる人間関係の特徴を明らかにしてきた。そこで注目されたことのひとつが、何かを負う者とそれを負わせる者との不均衡な関係である。お世話になった人からの頼みごとを断ることが難しいように、ある人に何かを負う者は、一時的にせよ、その人よりも劣位の状態におかれる。 この優劣の関係が強固であれば、それは権力の基盤になる。主君から多大な恩義を負うことが主君へのゆるぎない忠誠を約束させる、いわば「御恩と奉公」の関係のように、負目はともすれば権力や不平等の発生をうながす。負債/負目という切り口は、二者間の「負う−負わせる」関係のみならず、社会のしくみ自体を理解することにもつながるのだ。リーダーに負う社会とリーダーが負う社会 具体的な地域に舞台を移して、負債/負目と権力の問題にもう少し踏みこんでみよう。オセアニア島嶼部には二つの型■■■の政治リーダーがいる。ポリネシアとミクロネシアに広くみられる首■■■長は、固定的な役職をもち、出自や系譜などの条件により安定的な身分を保障されるリーダーである。それに対し、メラネシアにみられるビッグ・マンは文字どおりに「大■■■■物」であり、気前のよさや卓越した弁舌といった自らの個人的な技能によって、取り巻きへの影響力を強めながら競争を勝ちぬくリーダーである。 この二種類のリーダーのちがいは、公的な役職と個人的な影響力、生得的な地位と獲得的な地位、伝統的な政体と個人のカリスマといった対比からも説明できるように思える。ところが、島民との関係を抜きにして、これらのリーダーのあり方を十分に理解することはできない。特にだれがだれに負うのかという負目の方向から、それぞ首長に負うこと、負わないことミクロネシア連邦ポーンペイ島にみる称号と負目

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