フィールドプラス no.27
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abルタン星人)、ゲームの中で進化し、名前も変化するポケモンについて、名前に含まれる濁音数が増えれば増えるほど、進化レベルが高く、体重が重く、体長も大きいことなどを統計学的に明らかにしたりしている。ポケモンの名前の音象徴分析は、著者が2016年に始めた研究であるが、開始当初より世界的に高い評価を受け、現在も英語や中国語のポケモン名についての分析が進むなど、音声学・音象徴研究における重要な一分野として、大きな注目を集めている。 本書で扱っているのは、濁音の問題だけではない。本の帯に描かれているメイドのうち、どちらの名前がワマナ・サタカであるかを考えてみた場合、おそらく上の緑の髪の女性(萌えタイプ)をワマナ、下の茶色い髪の女性(ツンタイプ)をサタカであると考えた人が多いだろう。このことには、「マ行」「ナ行」のような音(共鳴音)の方が、「カ行」「サ行」のような音(阻害音)より丸っこく、女性らしいイメージがあることが関わっている。なお、タイトル『「あ」は「い」より大きい!?』は、様々な言語において/a/は/i/より大きく感じられる、という研究結果に基づくものである。 このように本書では、音声学に馴染みのない人にも理解しやすい題材を用いながら、なぜ私たちはある音に対し、あるイメージをもつのか、音声学的に分かりやすく解説されている。読者は、溢れるエピソードを楽しむ中で、音声学に関する幅広い知識を得るとともに、音声学の魅力・奥深さについても存分に感じとることができるだろう。 12濁音のイメージに関連する研究。(a)汚い皿と(b)きれいな皿、どちらが「ザベ」でどちらが「サペ」だと感じるだろうか。(同書115ページの元データをお借りして再構成)鮮やかな黄色の表紙に、風変わりなタイトル。帯には「どっちがワマナでどっちがサタカ?」という謎のキャッチフレーズとともに、美少女メイドの絵。実は、とっつきにくいと思われがちな音声学の入門書なのである。音声学って… みなさんは、「音声学」という学問を聞いたことがあるだろうか。音声学とは、人が発したり、知覚したりする音声について科学的に研究する、言語学の一分野である。こう聞いて、ただちに「面白そう!」と思った人は、おそらくそれほどいないのではないかと推測する。ここで紹介する『「あ」は「い」より大きい!?』は、新進気鋭の言語学者・川原繁人氏による著作である。音声学・実験音韻論を専門とし、主として日本語を対象に数多くの研究を行ってきた著者により、本書では、音声学の面白さや研究上の意義が、様々な身近な題材とともに分かりやすく解説されている。音声学と聞いて尻込みしてしまう人にこそ、お薦めしたい一冊である。 さて、本書はサブタイトルにもある通り、「音象徴で学ぶ音声学入門」であり、“例えば、「怪獣のゴジラはなぜ『ゴジラ』と名付けられ、なぜ『コシラ』にはならなかったのか」というようなことを、至って真剣に考えていく”ものとなっている(第一章冒頭)。「音象徴」とは、音自体が、さまざまな事象の意味やイメージに影響を与えるという現象のことで、分かりやすい例に、日本語の擬態語・擬声語がある。「トントン」というと軽く何かを叩くイメージだが、「ドンドン」というとかなり強く叩きつけている感じがする。ゴジラとメイドと音声学 本書では、なぜゴジラはコシラとならなかったのか、ということについて、次のように指摘している。“でも、「ゴジラ」を「コシラ」にすると、なんだかとっても小さくて薄っぺらい印象を受けます”。 確かにそのように感じられる。上の「トントン」「ドンドン」の違いにも見られるように、日本語の濁音には、「大きい、重い、強い」というイメージがある。本書の面白いところは、この濁音とネガティブなイメージとの相関性を、更に様々な現象の中に見出している点である。例えば「濁音は悪役の名前に使われることが多い」として、『ウルトラマン』シリーズの怪獣名に入っている濁音の割合を調べ、人間の名前に使われる濁音の確率よりもはるかに高いことを示したり(例:ベムラー、バ『「あ」は「い」より大きい!?──音象徴で学ぶ音声学入門』川原繁人(ひつじ書房、2017年)伊藤智ゆき いとう ちゆき / AA研川原繁人『「あ」は「い」より大きい!?』音象徴で学ぶ音声学入門

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