負う・負わせることなく分かち合う*写真はすべて筆者撮影。10軒先でキャッサバの皮をむく女性。近くには他の女性や子どもが佇んでいる。蒸したヤマノイモの形や大きさを見ながら、お皿に盛り付ける。とはない。 定住集落での彼らの食事は、キャッサバのイモや甘くないプランテンバナナを茹でた、いわゆる「主食」と、キャッサバの葉や、ココと呼ばれるタンパク質が豊富な野生植物の葉、キノコ、獣肉や川魚、川エビなどを組み合わせた煮込みおかずである。味付けには、森のナッツのペーストやアブラヤシなどの油脂調味料が使われる。料理ができあがり、ある程度の量があれば4、5人くらいに分ける。母や姉妹、夫の姉妹など親族関係の近い人たちから、そうではない人たち、一時的な訪問者などにも分けられる。男性たちが集まっている場所があれば、そこに持っていくこともある。くいという社会的な平等が両立しているということを指している。バカのところで初めてフィールドワークをすることが決まった頃、私は研究テーマについて悩んでいた。指導教員に、平等社会の変容について知りたいと話したところ、「初めての調査で『平等社会』とか『変容』を見ようとしても、うまくいくだろうか」「なにか具体的なものを見ないと分からないだろうから、まず食物分配の調査をしてはどうか」と助言を受けた。もっともな指摘である。言葉も分からない土地にいって、いきなり「平等社会」「変容」といった漠然としたものを見ようと思っても何も見つからない。生態人類学や地域研究で重視される姿勢とは、現地の人の話を聞くだけではなく、人々の日常の営みをつぶさに観察し、自らも参与することである。さらにその観察を具体的なものとするため、数を数えたり、量を測ったりして定量化することも重要であると教わった。 そこで私はまず、食物分配について調査をすることにした。170人ほどの人口の村を調査地に選んだ。バカたちは実に頻繁に食物分配をしていた。しばらくすると、私もその輪に入れてもらい、毎日食べきれないくらいの料理をもらうようになった。関野文子 せきの あやこ /京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程食物を分けることは狩猟採集民社会ではあまりに当たり前の光景である。しかし、その裏には人々のひそやかな交渉や心の動きが隠されている。分けることと負目の関係について人々の会話や行為から考えてみよう。日常的な料理の分配 「日本ではふだん、家で料理を作っても周り近所に配ったりはしない」というと、驚かれる。カメルーンの熱帯雨林地域に暮らす狩猟採集民バカの人々にとって料理を作って分けることはごく日常的な当たり前のことである。ふだん料理をあげる人を聞いてみると「私は〇〇、△△、××、□□……にあげる」と優に5人以上の名前がでてくる。かといって、近い親族にあげるのだとか、仲の良い人にあげるのだといった、分配に関する一般的なルールが語られるこ平等社会と分配 狩猟採集社会は、平等的な社会であるといわれてきた。平等であるということは、たんに持ち物が少ないからといったことではなく、食べ物の頻繁な分配をとおした経済的な平等と、リーダー的な人が生まれに定住集落での料理の分配 バカの人々は、かつては森のなかでの移動をベースにした狩猟採集生活をおくっていたが、定住化の進んだ現在、一年のうちのほとんどを幹線道路沿いの集落で暮らしている。しかし、現金収入源としても重要な果実であるブッシュマンゴーが実る時期や、狩猟、漁労が盛んになる乾季には、森で数か月のキャンプをすることもある。狩猟は主に男性が、採集は女性が行う。定住集落での食生活では農作物が多くを占める。畑ではキャッサバやプランテンバナナなどの主食作物を育てており、近隣農耕民から農作物を入手することもある。分配される食物の内訳をみると主食が6割、植物性のおかずが3割、肉や魚は合わせても1割に満たなかった。このように定住集落の食生活の特徴は、農作物が多くを占めている点にある。 食物が分配される理由の一つとして狩猟採集に伴う不確実性や不安定性を挙げることができる。例えば、狩猟では、獲物が獲れるときもあれば、獲れないときもある。しかし、複数人で分配をすることによって、不確実性を減らし、個人が得られる獣肉の偏りを小さくすることができる。一方、比較的簡単に手に入れることができ、そこそ
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