金を借りても逃げればよいラオスコーヒー栽培地域にみる貸し手が負う社会8*写真はすべて筆者撮影。仲買人による買取の様子。ずた袋を一つひとつ計量する。なものだ。コーヒーの収穫の様子。完熟の果実のみを手で摘み取る。関に入院する場合、症状によっては彼らの年収と同程度の医療費がかかることがある。ラオス国内の医療機関で対処できない場合は、隣国のタイの病院に入院することもある。この場合も莫大な費用がかかる。医療費だけではない。学費や日々の食費の工面など、さまざまな理由で急に現金が必要になることがある。コーヒー農家がどうしても借金しなければならない理由がある場合、こうしたレーさんのような仲買人に頼るしかない。箕曲在弘 みのお ありひろ / 早稲田大学、AA研共同研究員ラオス南部のボーラヴェーン高原に広がるコーヒー産地には、高利貸しもするコーヒー仲買人がいる。この高利貸しは農民を搾取する悪しき人々なのだろうか。貸付の状況を観察することから、別の姿が見えてくる。「高利貸し?」の仲買人 プーモーン村に住むレーさんは、自らコーヒー農園をもちながら、コーヒーの仲買もしている。仲買人は周囲の農家からコーヒー・チェリー(コーヒーの果実を指す)を買い取り、自分のピックアップトラックで輸出会社に運んで売却する。売却額と買取額の差額が■けになる。レーさんは仲買人としては中規模くらいだが、収穫期には毎日自分の村を中心に周囲の村々を巡回し、農家に呼び止められたら、車を止めて、農家が収穫したばかりのコーヒー・チェリーを計量する。支払いは即金だ。 レーさんは村長経験者で、村の有力者である。そんなレーさんは、村人が困ったときに現金を貸し付ける。利率は月8%。年ではない。「月」なので、金を借りた農家は1年後にほぼ倍の額を返済しなくてはならない。銀行の融資は年利14%程度なので、彼は高利貸しにみえる。この地域の仲買人の貸付は、誰でも月8〜10%の利子を取る。私たちの社会でいうと、仲買人の貸付は誰でも借りられる消費者金融と同じよう緊急援助の意味あいをもつ 仲買人の貸付 発展途上国の農村社会では、こうした「高利貸し」は比較的多くみられる。銀行の融資は手続きが煩雑だし、親族に借りるにしてもみな貧しければ簡単には借りられない。農家は月給制ではなく、農産物を売ることで収入を得ている。だから、天候不順による収量低下は現金不足を招く。ボーラヴェーン高原の中心部は、1990年代くらいまで焼畑で陸稲を栽培していたが、焼畑が実質的に禁止となり、今では換金作物のコーヒーばかりが植えられている。この生活環境では現金がなければ主食のコメさえ買えない。人々は現金の枯渇を一番恐れている。 この状況でレーさんの融資は、農民にとって緊急支援の意味あいをもつ。農家が緊急に現金を必要とするのは、たいてい医療費の支払いのときである。健康保険が普及していないこの地域では、民間の医療機「高利貸し」はつらいよ このようにレーさんは高利で融資をしているのだから、大■けをしているのではないかと勘繰りたくなる。実際、レーさんは村の中でも比較的大きな家に住んでいて、周囲からは「金持ち」とみられている。彼は村人の中で「高利貸しで大■けしている」という■が立っており、周囲からあまりよく見られていない。だが、彼の話をよく聞いてみると、彼の収入はコーヒー栽培と仲買によるところが大きく、金貸しはリスクが高いという。 2018年時点で、レーさんが融資していた村人は3人だけだった。以前は10人くらいいたが、返さない人がいるので、徐々に貸さなくなったのだそうだ。ある村人は2016年に1000万キープ(約15万円)を借りたが、その後、コーヒーの収穫期に雲隠れしてしまった。そもそも仲買人による貸付の返済時期は、必ずコーヒーの収穫期になる。この時期でないと農民は手元にまとまった現金がないからだ。農家は返済額に相当するコーヒー・チェリーを仲買人に受け渡すことによって「返済」する。これが
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