図1 「太陽」 敬称(アジア言語地図)4神*写真はすべて 岡村耕吉氏提供。徳之島の海。徳之島の闘牛。みると、思いがけない分布が現れる。それをどう解釈するかは、悩ましくもワクワクする体験だった。2年後に今度は奄美徳之島での調査に参加し、翌年には調査のリーダーを任された。修士論文で『中国地方五県言語地図』所収の言語地図を分析し、その発展として、博士課程のときに出雲方言と山陽方言の境界地帯で調査を行った。その後、全国調査の一部を担当したりしながら、現在居住している新潟県や奄美徳之島を中心として、様々な言語地図を描いてきた。分布を吟味し、解釈をうまく表す地図を作成することは、課題であるとともに楽しみとなっている。 アジア言語地図の最初の項目「太陽」のまとめを担当したので、この項目を例にしてことばの多様性の研究の一端をご紹介したい。ま」などの敬称が付いた複合語がある。韓国語にも、固有語のhɛ、漢語のthɛjaŋ(太陽)、敬称付きの複合語hɛnimがある。また、中国語を見ると、単一語のri(日)、複合語のtaiyang(太陽)、擬人化した「公・帝・■・婆」の付いた語の他、「菩■・仏」が付いた形式があるなど、類似のパターンが見られる。いずれも太陽信仰を反映すると考えられる。一方、「神」を表す語が含まれる例がアイヌ語やオーストロアジア語族など周辺の地域に、神の名が使われる例がイラン語派にある(図1)。 ヨーロッパ言語地図(Atlas Linguarum Europae:1983年から刊行中)の最初の項目「太陽」が、アジア言語地図でも最初の項目として選ばれた。「太陽」の項目では、両地図で共通して、意味する対象が拡大していることが見て取れる。「太陽」を表す語が、時の単位である「一日」や「昼」、「日光」などの意味を持つようになるのである。日(Esri, HERE)本土方言地域琉球方言地域奄美イラン語派 中国語チベット・ビルマ語派モン・ミエン語族オーストロアジア語族徳之島アイヌ語韓国語日本語凡例福嶋秩子 ふくしま ちつこ / 新潟県立大学、AA研共同研究員言語地図を読み解く言語地理学の手法を用いた研究を紹介する。アジア言語地図(Linguistic Atlas of Asia)の最初の項目「太陽」の地図と日本語における「太陽」の方言地図から、どんなことがわかるのだろうか。言語地理学との出会い 言語地理学とは、一定の方針の下に集められた言語データを地図上に表し、その分布からその地域のことばの歴史を明らかにするという学問である。私がこの学問と出会ったのは、大学3年の時だった。この分野の方法論的基礎を固めた『言語地理学の方法』の著者、柴田武先生のご指導のもと、岩手県雫石での方言調査に参加することとなったのである。たくさんの話者から聞き取った別々の情報を一枚の地図に表してアジア言語地図における「太陽」 日本語と韓国語はともに中国語から漢字を取り入れ、語彙のなかに漢語が多数含まれるという共通点がある。日本語の「太陽」を表すことばには、もともとあったことば(固有語=和語)である「ひ(日)」の他に、漢語として「太陽・天道・日輪(にちりん)・日天(にってん)・今日(こんにち)」がある。さらに、太陽を擬人化した「おひさま・おてんと(天道)さま・にちりんさアジア言語地図の「太陽」と日本語方言学
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